1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
スクランブル飛行機
重苦しい空気を充満させた車内は、エンジン音がはっきりと聞こえるほど不自然にシンとしていた。
加賀さんは僕を車に乗せるなり当たり前のように車を走り出させてしまったのだ。
驚きと戸惑いの中、何か言葉を発しなければと思うが、それを許さないような雰囲気がしばらく僕を悩ませていた。
「お願いがあって伺いました」
顔を前に向けハンドルを握ったまま加賀さんの口が唐突に開かれた。
「何か事件の捜査とかでしょうか?できる限り協力はしますが」
「いえ、事件というよりも国からの要請としてお願いがあります」
国からの要請という言葉に余計に話が見えなくなってしまう。警察は国家公務員なので国からと言えばそうなるのだろうか。
「私自身もばかげた話だとは思いますがよく聞いてください。いま巷で取りざたされている光る発行体についてです」
「ええ、それなら今朝のニュースで軽くは見ました。あれはUFOだとか神の啓示だとか」
「実はあの光の正体は未確認飛行物体。仰ったとおりいわゆるUFOといわれるものです」
寡黙で真面目そうな加賀さんは、意外と冗談を飛ばすような人なのだろうか。思わず乾いた笑い声を零して表情を伺うと、機械のような無表情で加賀さんは前を向いていた。
「光る飛行体については各国間で情報のやり取りがされていましたが、アメリカより情報が入ってきました。小型の飛行体がアメリカ国内のとある場所で着陸したそうです。しかも、その中から明らかに地球外生命体とおぼしき者が姿を現しました」
言葉は事実だけを述べるかのように淡々としていて、それを聞いていた僕は口をしばらくあんぐりと開けることしかできないでいた。
「その地球外生命体、呼称はcup and ballとされています」
「え、それってけん玉のことじゃ…」
「その通りです。問題はその宇宙人が明らかにけん玉のような物を手にしていた事です。コンタクトを取る手段がない中、けん玉を通じて何とか意図を探りたい。アメリカからの要請を経てあなたに白羽の矢が立ちました」
何かのドッキリではないかと疑いたくなる事を言い出した加賀さんは、至って真面目な顔のまま運転を続ける。
「いやでも、もしそれが本当だとしてなぜ僕なんですか?けん玉ができる人なんていくらでもいますよ」
「もちろん有識者や実力者は日本国内にたくさん居ますが、けん玉協会創始者の藤原一成さんのお孫さんというのが一番の選考理由だと聞いています」
いたって事務的な言葉を続ける加賀さんをよそに、意外な人物の名前に言葉を失った。現実味のない話が頭に入ってこず、お爺ちゃんの顔がぐるぐると頭の中で回りだして、僕は頭痛を感じ始めていた。
最初のコメントを投稿しよう!