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すっかり会話がなくなったまま車は空港に到着する。
駐車場に車を止めたところでエンジンを切り、加賀さんは改まった様子でこちらに顔を向けた。
「健太さん。断れないと言いましたが本当に嫌であれば私が上に掛け合います。ここから先は戻れません。どうしますか?」
今更ながらの問いかけに、少し考える風にして俯く。理由はどうであれきっと加賀さんなりに配慮してくれているというのが、ほんの少し緩んだ表情から見て取れた。
「断れないのにどうして聞くんですか?」
我ながら意地の悪い質問だと思うが、それでも聞かずにはいられなかった。
しばらく思い悩んだように黙った加賀さんは、強い眼差しでこちらを見つめた。
「全ての人間はどうするかを選べるべきだと思ったからです」
その言葉で、ふとけん玉教室で楽し気にけん玉を教える爺ちゃんの顔が思い浮かぶ。
しばらくどうするべきかを悩んで俯いていた僕は、決心して加賀さんに向き直った。
「分かりました。いまだに信じられませんが、爺ちゃんなら受けていたと思います。頑張ってみます」
そう答えると加賀さんは厳しい面持ちに戻り「ありがとうございます」とだけ言って短く頷いた。
おそらく本当に、どんな理由であれ、けん玉を誰かに伝えることができるなら、爺ちゃんは喜んで受けただろう。それが例え宇宙人だとしても。
僕らは車を後にして空港の受付の方へと向かい、あっさりと職員専用の裏口へと通された。
もちろんパスポートや手荷物検査などは全てパスしてあっという間に搭乗口にまでたどり着いてしまった。
「政府専用機に乗れる一般の方は少ないですから、ゆっくりしてください」
そう言われ招かれるまま飛行機に乗り込み、僕たちは日本を飛び立った。
* * *
途中食事などをしながらゆったりとした時間を過ごす。
機内は驚くほど快適で、飛行機の窓から眼下を見下ろすと街の光が煌めいて見えた。
乗り換えを挟みながら十五時間程たった頃、ようやく目的地についたのか飛行機は着陸していく。
加賀さんの後を追って降り立つと、見渡す限り荒野のようなだだっ広い景色が視界に入った。
加賀さんは周りを取り囲むようにして立つ数人の軍人らしき人たちと英語で言葉を交わし、ほどなくして後方で尻込みする僕の方へとやってきた。
「ようこそけん玉ボーイ歓迎します。だそうです」
加賀さんの翻訳を交えながらベレー帽を被った一人が笑顔で僕に握手を求め、それに受け答える。
映画でしか見たことがない小銃を背負う軍人を見て、ここがアメリカだと訴えかけてきているようだった。
「早速ですが向かいましょうか。ここから数キロ先に仮設基地があります」
「本当に此処アメリカなんですね…実感ないです」
「ええ、そうですね。これから宇宙人に会うなんて、私も実感がありません」
そんな会話をしながら見たことがないほど大きな車に二人で乗り込み車は走り出した。
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