宇宙遊泳

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宇宙遊泳

 肩幅に足を開き腰を落として膝を曲げる。  重力によってピンと張り詰めた糸の先には、真っ赤なボールがぶら下がり静止していた。  静かな空間でゆったりと呼吸をして、手の先の感覚だけに集中する。  一息に腕を振り上げて張り詰められた糸を軽く上へと引き上げると、球が無重力となり宙へ浮かびあがる。  まずは皿胴へ、けんを経由しながら次々に踊るように小皿や大皿へと移り変わる。  大きく振り子のように振り回したり、玉が飛び跳ねるたびに歓声が上がった。  最後にはジャグリングのように手を離れたけんと玉が大車輪を描いて綺麗に一つへと収まる。  そうすると、一際大きな拍手と歓声が湧き起こった。 「カッケー!すごいねけん玉星人!!」 「みんなもこれくらいすぐできるようになるよ」  目の前にはあの頃の僕と同じ歳ほどの小さな子供達がけん玉を握り目を輝かせていた。 「いやぁ、YouTubeの効果は絶大だねぇ。けん玉教室がこんなに大盛況になるなんて、凄いよ健太君!いや、けん玉星人!」 「まさか僕もここまで人気になるなんて思いませんでした」  山田さんがカメラを片手に笑顔で言って、僕は照れ臭くなり頭を掻きながら答えた。  事実、これまでにないほどけん玉教室は賑わいを見せているようだ。 「それにしても、けん玉星人なんて発想どこで思いついたの?健太君はけん玉のこと嫌いになったのかと思っていたよ」 「実は本物のけん玉星人に会った事があるんですよ。一緒にけん玉をしたのが楽しくて、それで思い付きました」  僕がきっぱりとそう答えると、山田さんは首を捻り困った顔をした。 「健太さん。どうかその件はご内密に」  教室の隅から場違いな黒スーツ姿の加賀さんが口を挟んだ。大真面目な顔をしてけん玉を片手にしたその姿が、なんだかちぐはぐで可笑しく笑ってしまう。  今頃僕が出会ったけん玉星人も、仲間にけん玉を教えているのだろうか。  窓から外へと目をやると、空で何かが動いた気がした。
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