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家庭教師の家
玄関を入るとこれまた、清潔感を感じさせられる靴の並びやシンプルさ。
歩みを進める先生の後を追います。
「平屋だからあまり部屋数は多くないのだけども、ダイニングで勉強教えるから荷物はリビング側のソファーに置いて、こっちにかけてて。」
先生は、ダイニングテーブルにプリントを数枚置くと、紳士的に椅子を引いて見せました。
室内はモダンで生活感もあるのにシンプルなレイアウトである事から、どこか男性的にも感じられて、みゆきは少し自分がドキドキしていることに気が付きます。
「みゆきちゃん紅茶に好みはある?いつもお母様からご馳走になっているからね。今日は僕が紅茶を出すよ。」
先生は少し恥ずかしそうに話しながらも、気に入ったらよかったら持ち帰ってねと、缶を見せるようにテーブルに置きます。
どの仕草や話もみゆきにとっては少し大人な先生のスマートな会話や動きに心が勉強よりも男性の家に足を踏み入れたことへの好奇心へと変わりつつあるのでした。
早速プリントに目を通さなければと無理やり気持ちを勉強に移そうとすると、先生はみゆきの手元に白いティーカップを置いて向かいの席へと座りました。
「普段こんなお上品なカップは引っ張り出さないのだけども、僕も同じカップでいただこうかな。学校お疲れ様。」
と、どこか緊張している私に気づいてか乾杯の仕草を見せるのです。みゆきは、手にしたプリントを置き先生の持つティーカップに優しくコツリと自身のティーカップを合わせるのでした。
そうしてみゆきは温かい紅茶に息を吹きかけ、一口またもう一口と紅茶を啜ります。
「どう?美味しいかい?僕猫舌で少し温かったらごめんね。」
微笑む先生の表情をみて、イケメンとまで感じていなかった先生の顔にどこか大人の余裕と色気を感じてしまし、いつもと違う感情が少しずつ芽生えていることに気づくのです。みゆきはそんなことを考えてしまう恥ずかしさを隠すように紅茶にまた口をつけます。
みゆきの緊張する姿をみて先生は微笑ましいのか、いつもよりも笑顔が多い様子でした。普段は自分の部屋の勉強机だったこともあり、向かい合っていることも普段と違うことからか先生の顔が目に入るたびに紅茶を飲み進めてしまします。
「そろそろお母様に電話してくるから、その間にプリントちゃんと見ておいてね。」
そういうと、先生はダイニングから出てゆくのでした。
そうだ、自分は勉強しにきたんだった、と改めて現実へと自分を引き戻しプリントを見つめます。
しかし三行ほど文章を読んでいるうちに、みゆきは不思議と目が霞むのか頭に文章が入ってこず、今一度最初の文章を読み直すのでした。いけないいけない、まだ心が浮き足立っているのか集中しなければ。
身も心も引き締めてプリントを握りしめ文字を追いかけようとするのですが、みゆきは夢心地のその文字に引き込まれるように、霞み歪みゆれ、静かに瞼を下ろしてしまったのです。
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