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両手両足が解放されすぐ、駆け足で扉へと近づき耳を扉へ立ててからドアノブを回します。開くはずはありません。
小さいおじさん先生にはどうやら見えていないことを考えると、私の幻想か何かなのだとみゆきは思いました。
目の前にあるジェノベーゼ。なんで私が好物だって知ってるんだろう、そんな話しただろうかと頭を悩ませつつも、使いたくないフォークを見つめては立ち尽くすしかできませんでした。
するとその丸テーブルの上におじさんがひょっこりと現れます。
「あなたが実在するのなら、このパスタなんとかしてよ。」
投げやりにみゆきが小さなおじさんへと愚痴を漏らすと、おじさんはパスタを大きく鼻の穴を膨らませて嗅ぎ、両手を擦り合わせてはその手でパスタを掴みチュルチュルとすすってゆくではありませんか。
ちゅるんと跳ねたソースは空に舞い上がりみゆきの頬へとくっ付きます。
「本当に・・・食べてる。」
おじさんは目をまんまるくさせて、両手で次々と口の中へとパスタを放り込みました。
最後には舌でなぞるように緑のソースを舐めきって皿ごとピカピカにしてしまいます。髭は緑に染まって顔中ジェノベーゼカラー。
みゆきはその現実離れしたおじさんの顔と、現実にある真っ白なお皿を見て初めて顔の緊張が解けたように感じます。
「おじさん、顔いっぱいついてる。緑色のモンスター見たい。」
みゆきはどことなく優しい口調で話すと、おじさんはベトベトの髭を手で撫でるとまた口をへの字にして、パタパタと自分の胸を払うかのように叩きました。
するとなんとう言うことでしょう、きらりとおじさんの全身が煌めいて一瞬にして顔も体も元の色に戻り、ベタベタの汚れた姿から乾いた皺のおじさんへ元通りになったのです。
「・・・すごい。あなた、魔法が使えるの!?それなら私をここからだして!」
そう口を開くと共に再び嫌な扉音がしました。
体を硬直させるみゆきの背後から、声がかかります。
「食事はすんだかな?」
先生はみゆきの肩にてをそえると真っ白のお皿をみて感動の声をあげました。
「なんでどうして。僕の作ったパスタをこんなに綺麗に平らげたなんて。頬にソースがついてるよ。」
そういいみゆきの頬のソースを拭い取ります。
「お皿を舐めるなんてはしたないね。でもそれを想像するだけで、なんだか君と一つになれた気がする。」
先生は満足そうに皿を下げまた部屋を出てゆきました。
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