暖かい灯火

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暖かい灯火

ほっとした気持ちと、気持ちの悪さで胸元がざわめく中、みゆきはベッドへと腰掛けます。 おじさんの姿はテーブルからいなくなっており、辺りを見渡すとベッドの下にいました。 みゆきもしゃがみこむと小さな切れ目が床にあることに気づきます。 その切れ目は正方形を模っており床下収納スペースであると次の瞬間すぐに理解しました。 おじさんがその四角い戸を上へと引き上げると中には数本のビールや酎ハイ、いくつかのスナック菓子があるのです。 「これ・・・・おじさんの?」 中からおじさんが自分と同じくらいのサイズの缶ビールを抱え一生懸命に引き上げようとしています。出すのを手伝うと、おじさんはふむふむという表情でまた髭を撫でて、中にあるスナック菓子を指差しこれも出してくれと言うような合図を送ります。 みゆきはそっとその袋を取り出して開けてあげました。 ベッドの下にあぐらを描きながら、カシュッっと缶ビールをこなれたように体全体を使って開けるおじさん。缶を片足で支えて傾けながら全身で受け止めるようにしてごくごくと呑み大きなゲップを一息。 スナック菓子に両手を突っ込むと、少し考えてからすぐにみゆきにチップスを一枚差し出しました。 「くれるの?」 みゆきが受け取ると、おじさんはどうぞと手のひらを差し出します。 一口齧ると、泣き続けた空腹には染みる美味しさです。 「おじさん、あなたここに住んでるの?」 おじさんは指先でちょっとだけと合図で返します。 「借り暮らしみたいなものなのかしら、他にも家があるのね?」 おじさんはこくこくと頷きました。 「じゃああなたは、外に行き来できるんだ、そもそもこのお菓子あなたのなの?盗んできたんじゃ。」 おじさんは悪そうな笑みを浮かべています。 「ふふ、悪い小人さんね。・・・・私ここから出られるかしら、ちゃんと生きて帰れるのかしら。」 急に現実へと気持ちが戻り俯いていると、おじさんは再び床下収納から赤い小箱を取り出します、それは封のあいたタバコでした。 同様に床下からライターも取り出します。 そのライターをみゆきの膝に置き、いつの間にやら部屋の隅へと引き摺り出していた枕の上へとタバコを持ち運びます。そして寝転がっては煙草を咥えました、どこかでみたマフィア映画の葉巻を咥えるボスのように。 みゆきは態度に言われるままおじさんのそばへと寄って、ライターでタバコに火をつけてあげました。 「寝タバコはだめよ。」 そういうと、みゆきは静かにベッドへと戻り、どうか今日が夢でありますようにと布団の中にまるまっては、めを静かに閉ざすことにしたのです。 目を瞑ってどのくらいでしょうか。 どことなくタバコの煙が焦げ臭い、ひどく煙たい煙へと変わっていました。 急いで布団を剥ぎ枕のあるおじさんの元へと目を向けます。 しかしそこにおじさんの姿はなく、煙はこの部屋から出ているのではないことを認識します。 しかしながら煙たい空気は部屋中に少しずつ蔓延しているのです。 いそいで扉に駆け寄りますが残念ながら扉の鍵が空いているわけではありませんでした。 なんとかして出ないと、そう必死に思う中みゆきは呼吸が徐々に苦しくなり 次第に意識が遠のいていきます。 遠くの方からカンカンカンと消防車の音が聞こえる中みゆきは意識を失ってしまうのでした。
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