(一)

1/2
前へ
/27ページ
次へ

(一)

 入社十二年目の三瀬亮介は、局内にあるアナウンス部の小さなアナウンスブースへ入る直前にADの勝木瞳から原稿の束を受け取ると、手早く原稿に目を通しながらブースのデスクの前の椅子に腰を掛けた。  F1のピットのようにすぐにスタッフが駆け寄る。メイク係が化粧を施し、別のADが追加の原稿をデスクに置く。  そしてどこからともなく男性の怒鳴り声に近い「三〇秒前!」という大きな声がかかる。  三瀬はカメラの上の赤いランプの方を見る。その隣では勝木が腕時計を見ている。そして「一五秒前、一〇秒前」と声を上げる。 「五、四……」 (続く)
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

216人が本棚に入れています
本棚に追加