僕はあくまで君を……

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僕は小学生の時、数人のクラスメイトにいじめられていた。 悪口を言われたり、ランドセルに虫を入れられたこともあった。 止めてと言ったら気に障ったのか、抑えられて勢いよく足を踏んづけられた。 しばらくの間は足が赤く腫れ、上履きから靴に履き替えるのが苦痛で仕方なかった。 身体にもやられた、服に隠れるところ。 夏は半袖だからお腹や背中を、冬は長袖だから全体的にアザをつけられた。 担任の先生に相談してみたけれど、それは無意味に終わった。 「黒原の気のせいじゃないか?」 「で、でも先生......」 「黒原みたいなのが問題になってるんだよ。打たれ弱くて、勝手に被害妄想して、いじめられていると勘違いしてる。大体、黒原は何もしていないのか? 先に悪いことをしたのは、黒原かもしれないだろ」 諦めるには十分な言葉だった。 もう何を言っても無駄だなと思った。 放課後、家に帰ると珍しく母さんがいて、スマホを見ながら楽しそうにしていた。 そして僕に気づくと、ぱっと笑顔を咲かせた。 「おかえり、誠」 「ただいま......、今日早く帰って来れたんだ」 「うん。また六時頃に出なきゃいけないけどね」 「そうなんだ、ところで今なに見てたの?」 僕がそう訊ねると母さんは、にやりと笑みを浮かべて言った。 「今度遠足行くんだってね〜」 「え? なんで知って......」 「ふふっ、お母さんは誠のこと、なんでも知ってるんだから」 その言葉に思わず、心臓が跳ねた。 「誠はいつも我慢してくれてるから、遠足に持っていくお弁当。出来るだけ豪華にしようと思って、いまスマホで調べてたの」 「そうだったんだ、ありがとう」 「あ、手洗いうがい忘れずにね」 僕は「はーい」と答えながら洗面所へ行き、用を済ませて自分の部屋に戻った。 母さんには言えなかった。 だって母さんはいつも、僕のために夜遅くまで仕事してくれるから。 幼稚園の時、転んで泣いていた僕に、母さんが言ってくれたことをふと思い出す。 "痛いの痛いの飛んでけ、雲を突き抜けて飛んでけ。 宇宙まで飛んでブラックホールで滅びちまえ"って。 なんだかそれが面白くて、痛みなんてどうでもよくなって笑ったな。 「痛いの痛いの飛んでけ......、雲を突き抜けて飛んでけ......、宇宙まで飛んで......、ブラックホールで滅びちまえ......」 瞼の隙間から漏れた涙は、自分の弱さと現実を教えてきた。 「あれ? 飛んでいかないや......」
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