- 壹 - 迎えを待つ

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 実際のところ、たしかに後宮に入った后妃の生活は、(おのれ)自身でする事など、たかが知れていた。  日々の細々(こまごま)としたことや身の回りの世話はすべて女官が取り仕切っている。  そのせいか、むしろ、自分のことを自分でやろうとすると、叱られる始末だった。  我々の仕事を奪い、辞めさせるつもりか、とまで言われれば、引くしかない。  そうなると、綉葩本人がすることといえば、せいぜい凝った刺繍をすることか、窓辺に座って庭を眺めることだけ。  つまり、足を使わなければならない場面は、あまり多くはないとも言える。  そんな状況なら、せめて書物でも読もうとしたが、それも禁じられていると教えられた。  后妃に、皇帝の機嫌を取る以外の知性は必要ない、という理屈だった。  そんな生活に、すぐに倦むのもしかたないだろう。  豪勢な料理も、華美な衣装も、はじめこそ心が揺さぶられたものだが、そんな時期はあっという間に過ぎ去った。  あとに残されたのは、退屈を持てあますだけの、膨大な無為の時間。  この宮に来てから、すでにもう約二年。  そのあいだ、伽に呼ばれたことは数回しかなかった。  つまり、皇帝からの覚えがめでたいというわけでもない。  そんな存在なのに、一度後宮に入ったなら、もう一生ここから出ることはない。  なんとも虚しい人生だと、綉葩は思う。  他の后妃たちは権勢争いに夢中なようだが、自分はどうにもその手のことは苦手だ。  しかし、この足では逃げ出すこともかなわない。  ここで生き続けていくことを、受け入れるしかなかった。
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