- 参 - 夜の熱

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 おぶわれて、皇帝の寝所へ続く廊下を進む。  外から見えぬよう左右と天井は木の板で囲われ、足もとに小さな灯りが点在するだけの長く薄暗い空間は、洞窟を思わせた。  閉じられた、まるで二人だけしか存在していないようなその場所を行くあいだ、煕佑は独り言を呟く。 「また、軽くなられた」  寵妃と宦官がここで言葉を交わすなど、あってはならないことだ。  ゆえに独り言である(てい)が必要で、煕佑の声は本当に小さかった。  だが、音の響きにくい、だだっ広い砂漠の近くで育った綉葩は、ことのほか耳がいい。  だから、その声は充分に聞こえた。  トン、トン。  掴まるために首に回していた指先で、煕佑の襟もと、鎖骨近くの肌を綉葩は軽く叩く。  言葉を聞いている、という合図だ。  いつのまにか、二人のあいだの暗黙の約束ごとになっていた。 「ちゃんとお食事されてるのだろうか」  トン、トン。 「もっとお太りになればいいのに」  スゥ。  今度は、爪の甲で軽く撫でるようにする。  否、もしくはこの話題は終わり、という合図だ。  煕佑は小さなため息をひとつだけつき、黙った。
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