- 壹 - 迎えを待つ

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- 壹 - 迎えを待つ

 もうすぐ、(しょう)煕佑(きゆう)が迎えに来る。  それを待ちながら、(よう)綉葩(しゅうは)は椅子のうえで、夜気に震えていた。  たった今身につけているのは、透ける薄衣(うすぎぬ)一枚だけ。  その姿で、慶邁(けいまい)帝の寝所へと参じるための迎えを待っているのだ。  世界有数の大国のひとつ、(せい)大帝国の首都の中心にある、普照(ふしょう)城。  厚くて高い塀に囲まれた広大な敷地には、前面には皇帝の執務室や、それを補助する役所、拝謁のための大広場といったものが並ぶ、『前宮』がある。  そして後ろ半分の敷地はプライベートな空間とされ、皇帝の住む主宮を中心にして、各地から集められた后妃たちが、それぞれ与えられた宮に住む『後宮』となっていた。  綉葩が暮らすのは、その宮のひとつ、瑯鑽宮(ろうさんきゅう)。  (きょう)貴人と呼ばれる地位を与えられているが、後宮での階級としては、あまり高くはない。  そのため、主宮からはあまり近くないし、大きさも正妃である皇后の富華(ふうか)宮に比べるとひとまわり小さい。  とはいえ、塀の外に暮らす人々に比べれば、数倍立派な建物ではある。  ただ、今この瞬間は、その恩恵はあまり関係していなかった。  今いる部屋が、あまりにも寒々としているせいだ。  ここは、それぞれの妃の宮の最奥に作られている、『待機の間』だった。  この特別な部屋は、皇帝の寝所へ続く廊下へと繋がっている。  そこへの扉が、すでに開けられているので、冷気が容赦なく入り込んできてしまう。  そのせいで、暖房がほとんど役にたっていないのだ。
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