第4章

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 「えっと、どこで演奏をしたらいいでしょうか?」  「どこでもいいけど、できればカウチの前がいいかな。一応それ用のスペースは作ったんだけど、君が演奏しやすいように家具を動かしてもいいよ」  そう言われてその方向を振り向くと、確かに壁に取り付けられたテレビと、それに対面するように置かれているカウチとの間にかなりのスペースがある。  (なるほど。だからテレビとカウチの距離がやけに開いてるんだ)  「わかりました。じゃ、ここに準備をしますね。弾く前にすこしだけお時間をいただいてもいいですか?」  「もちろん。じゃあ俺はここで少し料理の準備をしてる。何か飲み物でも飲む?」  「いいえ、大丈夫です。あの、もしよろしければ、あのガリアーノのヴァイオリンを持ってきていただいてもいいでしょうか?」  彼は「わかった、持ってくる」と、どこかに消えると、あの詐欺容疑をかけられたヴァイオリンケースを抱えて再びリビングへと戻ってきた。  ネイビー色の綺麗なケースで、あの時鵜飼さんから受け取った時も、なかなか綺麗なヴァイオリンケースだなと思っていた。でもまさか、こんな高価なヴァイオリンが中に入っているとは思わなかった。  「どうぞ」  奏さんは目の前のテーブルにそっと置く。私は恐る恐る指で硬いケースに触れた。ロックをパチンと開ける。  そっとケースを開けると、美しいヴァイオリンが姿を表す。  詐欺容疑で警察に捕まった時は中を見せてもらえなかったので、今回初めて目にすることになる。  オレンジブラウンのボディーで、しっかりとした艶もある。使いこなしたような痕跡はあるものの、保存状態がかなりいいヴァイオリンだと思う。  そっとヴァイオリンを取り出して、手にとってみる。小さな楽器なのにその歴史の重さを感じてか、ずしりと重い気がする。  隣では奏さんがそんな私の一挙一動をじっと見つめている。
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