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「私、南條警視正の双子の弟、初めて見ました」
藤井刑事がボソリと荻野刑事に囁いたのが聞こえ、思わず目の前に私を守るように立ちはだかっている男性を見上げた。ということは、この「奏」という男性も南條家の人なわけだ。
「一ノ瀬さん」
「は、はいっ!!!」
南條警視正さんに名前を呼ばれて、ビシッと立ち上がった。
「捜査二課の南條 肇と申します。今回あなたが巻き込まれている特殊詐欺事件を担当しています」
「はい」
私はゴシゴシと涙と鼻水を服の袖で拭いた。
「それと鵜飼は私の祖母です」
「…………も、申し訳ありませんでした!!」
腰を低くして、深々と頭を下げた。あまりにも勢いよく頭を下げすぎて、ゴンっと額をデスクにぶつける。
「実は先日、祖母が特殊詐欺とみられる電話を受けまして、私に連絡をしてきました。それで今回、囮捜査に協力してもらうことになりました」
「は、はい」
私はヴァイオリンを手渡してくれた鵜飼さんを思い出す。おっとりしていて、とても上品で優しそうなお婆さんで、
「ヴァイオリンですね。うふふ。今お渡ししますね」
と朗らかに笑っていたのに、裏では囮捜査に協力していたわけだ。恐ろしい。
鵜飼と苗字が違うからおそらく彼の母方の祖母なんだと思うけど、それにしても名門警察一族から金目の物を騙し取るとか、あまりにも運が悪すぎる。
「一ノ瀬さん、とりあえず今日は帰られても結構です」
「えっ……、い、いいんですか……?」
思ってもみなかった言葉に、再び視界が涙で滲んでくる。
「で、ですが、南條さん、彼女は……!」
不満な様子の荻野刑事を、南條さんは小さくため息をつきながら一蹴した。
「わかってる。ただ、今聞いた彼女の供述だけじゃこれ以上拘束することはできない」
そう言って彼は目の前に立ちはだかる奏さんを忌々しげに見た。
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