第2章

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 「祖母はああ見えても少し心臓が弱いんだ。それにあの歳だし最近は少し認知症もある。だからこの囮捜査であまりストレスをかけたくなかったんだ。それで警察には外で待機してもらって、代わりに俺が家の中で待機しながら警察と連絡を取り合ってたんだ。でも……」  と言って一旦言葉を切ると、再び私を懐かしそうに見ながら小さく笑った。  「……君が現れて、驚いた」  「えっ……?」  そのセリフが妙に引っかかって、私は目を瞬く。  (わたし、やっぱり奏さんとどこかで会ったことある……?)  そう首を傾げた時、彼は急に腕を伸ばすと私の腰に軽く手をあてた。  「ほら、そっちは危ないからこっちへおいで」  少し距離をあけて歩いていた私を奏さんはそっと抱き寄せる。そして今度は位置を変えると、私を歩道の内側、彼が道路側を並んで歩く。  彼がつけている香水がフワリと鼻腔をくすぐり、またしても以前どこかで嗅いだことのあるような既視感に襲われる。  (この香り、一体どこで嗅いだことがあるんだろう?)  心が落ち着くような懐かしい感じ……。昔、どこかで嗅いだことがあるような気がするのに、なかなか思い出せない。  首をひねりながら記憶を辿っていると、やがて彼は黒塗りの高級車の前で立ち止まった。  奏さんが助手席のドアに触れるとピピッとロックが解除されて、「どうぞ」と優雅にドアを開けてくれる。  「あ、ありがとうございます」  今まで男性にこんな風にドアを開けてもらったことのない私は、思わず頬を赤らめながら助手席に腰をおろした。  (奏さんってイケメンってだけでなく、紳士的で素敵な人だな……)  なぜか妙に彼を意識してしまい、心臓がドキドキと高鳴る。奏さんはそんな私を見てクスッと笑うと、ドアを閉めて運転席へとまわった。
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