第2章

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 「あの……奏さんはどうして警察官ではなく弁護士になったんですか……?」  通り過ぎる街の灯りが彫りの深い顔に美しい陰影を落とす。そんな綺麗な彼の横顔を見ながら、私はちょっとした興味から問いかけた。  「そうだな……」と奏さんは呟くと、記憶を辿るかのように少し遠くを見つめた。  「実は俺も肇と一緒に警察官になる道を進んでた。特に警察官になりたかったわけじゃないけど、ただ子供の頃から警察官になるよう育てられたから、そうなるのが自然な流れのような気がした。でも……」  そう言葉を区切って彼は一瞬前方から目を離すと、真剣な眼差しでまっすぐに私を射抜いた。  「忘れられない出来事は時として人を大きく変えることがある。俺は警察官としてではなく、法曹の道を進もうと思った。それでまぁ弁護士を選んだ。今は警察官ではなくこの仕事を選んでよかったと思ってる。それに君を助けることもできたしね」  彼はそうニコリと微笑むと、再び前方に視線を向けた。  「そういえば、ニコロ ガリアーノのヴァイオリンを知ってるの?」  「えっ?」  「いや、ストラディヴァリウスみたいな有名なヴァイオリンなら知ってる人は多いけど、ニコロ ガリアーノのヴァイオリンなんて、ヴァイオリンを弾く人ぐらいしか知らないだろ?」  「ああ、えっと、それは、その……昔……知り合いがガリアーノのヴァイオリンを貸与されてたのを見たことがあって……」  世界三大ヴァイオリンと呼ばれる『ストラディヴァリウス』や『アマティ』、それに『グァルネリウス』の他にも、いわゆる名器と呼ばれるアンティークなヴァイオリンはこの世にいくつか存在する。そしてそんなヴァイオリンは実力あるヴァイオリニストに、そのオーナーや団体から貸与されることがある。
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