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やがて彼の運転する車は閑静な住宅街へと曲がる。ここは東急池上線沿線にあり、自然もわりと多くて都心へのアクセスもいい。
「あ、すみません。そのグレーの壁の家です。わざわざ送っていただきありがとうございました」
私は小さな一軒家を指さした。ここは元々父方の祖父母の家だった。でも祖父母が亡くなった後、それを父が受け継いで、綺麗にリフォームして親子3人で暮らしていた。両親が亡くなった今、ここは私の持ち家になっている。
奏さんは私の家の前まで来ると、車を停車させた。そしてエンジンを切ると、私と一緒に玄関まで歩いた。
「今日は本当に、いろいろとありがとうございました」
玄関のドアの前に立つと、彼に深々と頭を下げた。奏さんのおかげで今日は命拾いをしたといっても過言じゃない。
「どういたしまして。君の役に立てて良かった」
そう言った後、奏さんは私に早く家の中に入るよう促す。どうやら私が無事家の中に入るのを待っているらしい。
(さすが警察官一家だな。こういう責任感が強いところは、きっと小さい頃から身についてるんだろうなぁ……)
子供の頃から警察官になるよう厳しく育てられたと言っていた彼の言葉を思い出して、私は思わず口元を緩めた。
「じゃあ、奏さん。おやすみなさい」
そう言いながら玄関のドアを開けた途端、彼は驚いたように大きく目を見開いた。
「一ノ瀬さん、もしかして引っ越す予定なの?」
玄関や廊下には段ボール箱が所狭しと山積みにされている。ここ1ヶ月、私が色々と整理しながらパッキングしているものだ。
「はい。実は両親は既に他界してて、今ここに一人で暮らしてるんです。でも一人で住むにはちょっと大きすぎて……。部屋だって3つも余ってるし、それになによりも掃除が大変で……」
そう言いながら、少し残念そうに二階建ての我が家を見上げた。
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