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祖父母と一緒に暮らした神戸の大学を卒業後、再び東京に戻ってこの家に住み始めた。生まれ育ったこの家が自分の家だと思って、両親との思い出を時々思い浮かべながら過ごした。
でも4年暮らしてみてわかったのは、今の私にはあまり実用的ではないということだった。結婚して子供がいればちょうどいいのかもしれないけど、一人で住むには無駄が多すぎる。
「それで叔母にあの家をどうしようかって相談したんです。そしたら貸したらどうかっていう話になって……。ここは小学校にも中学校にも近いし、近くにはスーパーもあってとても便利なところなんです。実際、すぐにでも引っ越したいというご家族がいらっしゃっるんです」
それを聞いた奏さんはしばし考え込んだ。
「なるほどな。引越し先はもう見つかってるの?」
「ええっと、今いくつか見てるところはあります。本当はできればヴァイオリンが時々弾けるよう防音室が付いているマンションがいいなと思ってたんですけど、なかなかいいのが見つからなくて。まぁ防音室がついてるマンションなんてちょっと珍しいですから。だからそれはちょっと諦めようかなって思ってて」
今でもなんとなく毎日弾いてはいるけど、いわば趣味程度。既にヴァイオリニストとしての夢は諦めたわけだし……防音室はもう必要ないといえばそうなのかもしれない。
「あの、奏さん……」
引越しの話をしていた私は急にある事を思い出して、おずおずと話しかけた。
「その……警察の人には特に聞かれなかったので、このことは何も言わなかったんですけど、実は……黒崎さんにこの引っ越し先のマンション探しを手伝ってもらってたんです」
「黒崎って、確か……例の秘書がいる会社経営者だったな……」
奏さんはすぅっと切れ長の目を鋭く細めた。
「はい。実は彼、不動産会社を経営していて」
途端にあの佐藤という秘書を思い出して私は頭を抱え込んだ。
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