第2章

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 黒崎さんは私の勤めている会社近くに、小さな不動産会社のオフィスを構えている。  1ヶ月前、会社近くのカフェで一人お昼を食べていると、  「ここでよくサンドイッチを美味しそうに食べてるよね」  と、たまたまカウンター席の隣に座った彼が話しかけてきた。  その後何度かカフェで一緒にお昼をするようになり、その時に私の家の話をしてアドバイスをもらおうと相談した。すると彼が賃貸契約の手続きから私の新しいマンション探しまで手伝ってくれることになった。  先週の土曜日は彼と一緒に色々と物件を見て回った。その後に、  「いい眺めのバーがあるんだ。一緒に飲みに行かないか?」  と誘われて、ホテルの最上階にある夜景が一望できるバーで一緒に夕食までした。  黒崎さんはとても人懐こい性格の人で、奏さんとは正反対の甘い顔立ちをしている。控えめに言ってもかなりイケメンな方だと思う。話し上手で、しかも女の子の扱いにはよく慣れている感じのするタイプだ。  でも鵜飼さんからヴァイオリンを騙し取るよう私を騙すような人には思えない。どちらかというと、そんな遠回しな事をするよりも直接自分でするタイプのような気がする。それにそもそも自分の会社の秘書を使うとか、そんなバカな事をする詐欺師なんていない。  (でも、だったらあの佐藤という女性は一体誰なんだろう?黒崎さんのことをよく知っているような口調だったけど……)  「あのさ、もしかして……君のご両親が既に他界してることをそいつに話したことある?」  奏さんの質問に、抱え込んでいた頭をふと上げた。なぜそんな質問をするんだろうと疑問符を浮かべる。  「はい。それはもちろん……。実家を借家にしてその収入でまかなえるマンションを借りたいって話した時に、両親は10年前に事故死したって……」  それを聞いた奏さんは、ふぅん……と小さく呟くと、何かひどく考え込むようにしばし宙を睨んだ。
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