第2章

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 「そういえば……いつにする?君がヴァイオリンを弾いてくれる日なんだけど。予定を空けときたいんだ」  「あっ……そうですよね。日にちを決めないといけないですよね」  それはそうだ、と頷く。弾くと約束したのにずるずると引き伸ばしになって、その内じゃあなかったことに、なんてことにはしたくない。それに奏さんは弁護士だ。きっと忙しくてスケジュール調整に時間がかかるのかもしれない。  「いつにしましょうか?」  流石に二ヶ月先とかはありえないだろうし、1ヶ月先はおそらく引越しで忙しい。それにお礼をするならなるべく早い方がいいような気がする。  「えっと……じゃあ来週か再来週の土曜日はどうでしょうか?」  「来週の土曜日にしよう。あのさ、演奏する場所なんだけど、俺の家でもいい?」  「えっ…… 奏さんの家……ですか?」  彼の提案に私は思い切り狼狽してしまう。  「あのマンションは一応全室防音になってる。特にリビングルームはかなり防音性の高い設計になってる」  「そ、そうなんですね……」  確かにヴァイオリンを演奏するには、近所迷惑にならないよう防音室が必要になる。  防音室をどこかで借りてもいいけどかなり狭いし、私の家は引越しの準備でとてもじゃないけど人を招ける状態じゃない。そう考えると、彼の提案は妥当な気がする。  ( で、でも……それって、彼の家で二人っきりになるってことだよね……)  黒崎さんの時のように公共の場で、しかも大勢の人がいる場所で一緒に夕食をするのとはワケが違う。  内心かなり狼狽えて、私は視線を彷徨わせた。でも奏さんは、そんな私にさらに追い討ちをかけてくる。  「それと君が演奏してくれるお礼に、夕食を作ってご馳走したいんだ」  「えっ……夕食……ですか?」  警戒心からか、私はさらに身をガチッと固めてしまう。  彼の為に私がヴァイオリンを演奏して、彼がお礼に夕食を作って、それを一緒に彼の部屋で食べるなんてかなり親密、というかむしろ恋人同士が過ごすような設定だ。
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