776人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
第3章
翌週火曜日の午後――…
低気圧の通過で朝から降り出した雨は、どんどん激しさを増してきている。私は大急ぎで走りながら、会社のあるビルへと駆け込んだ。
「はぁー、もう最悪。歩道がほとんど洪水だし。今日リモートにすれば良かったかな」
傘を閉じながらぐっしょりと濡れた靴を見た。なんとなくジワリと水が靴の中に染み込んでくる感じがする。その不快さに思わず顔をしかめた。
私は今「Sviluppo」という、主にスマホ用のアプリを開発しているソフトウェア会社に勤めている。
比較的まだ新しい会社で、まだ設立して6年目。従業員も平均年齢が30歳と比較的若い。でも次々とスマホ用アプリのヒット作を生み出している急成長の企業だ。
この会社の社風はとても自由で、始業時間なども特にない完全フレックスタイム制。
一応月曜日と金曜日には全体ミーティングがあるのでそれなりに人はいるけど、きちんと仕事さえこなせばリモートで働いてもいいことになっている。
ただしこんなゆったりした社風だけど、かなりの実力主義。仕事のパフォーマンスが悪いと解雇されるなど厳しいところもあったりする。
でも基本的にスタッフは皆優秀で、真面目にやっている限り解雇される人なんてほとんどいない。
オフィスの中もあまりギスギスしたところがなく和やかで、福利厚生だって充実していてる。そんな会社を私はとても気に入っていて、今年で入社4年目になる。
「一ノ瀬さん、今日はもう帰ってリモートにすれば?明日の朝までには低気圧通過するらしいけど、これから雨足がひどくなるって天気予報で言ってたし」
上司の赤嶺さんが、ずぶ濡れでコンビニから戻って来た私に声をかけた。
彼はいくつかのプロジェクトを管理しているプログラムマネージャーで、私は今年から彼の下について、サブマネとして小さめのプロジェクトのマネージメントを任されている。
私の主な仕事は日々プログラマーの作業進行状況を確認したり、月次目標に向けて順調に進んでいることを上司である彼に伝えたりするというもの。期日の近いものはテスト状況を確認したりその評価をしたりもしている。
最初のコメントを投稿しよう!