第3章

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 「本当はそうしたいんですけど、まだテスト結果のレポートが終わってないんです。それに動作確認がまだなものもあって。でもそれが終わったら帰ろうかな。赤嶺さんはこれからどうするんですか?」  「俺は今『ミラージュ』の納期が迫ってるから、もうちょっとここに残ってやるよ。最悪はこのまま会社に泊まってもいいし」  『ミラージュ』というのは我が社が誇る人気ゲームアプリ『バトル ディゼル(battre des ailes)』の最新バージョンの呼び名だ。うちの会社ではそれぞれのアプリのバージョンに、『ミラージュ』とか『レックス』とかいろいろあだ名をつけて呼んでいる。  この『バトル ディゼル』は、この会社を一気に大きくしたきっかけとなったスマホ用ゲームアプリで、推しのアイドルグループを応援して世界に送り出してトップアイドルにするというもの。  ストーリラインがとにかく細かくて、それに推しのアイドルとの恋愛要素が散りばめられた、かなりこだわりのある内容になっている。  このアプリを開発したのは、我が社の若き社長、大城翔太(おおしろしょうた)、35歳。  以前は国内指折りの商社に勤めていた。  幼少の頃より両親からいい大学に入って一流企業に入社すれば良い人生があると叩き込まれ、受験戦争を勝ち抜き難関大学に合格。卒業後は有名一流商社に入社した。  でも彼を待っていたのは残業、また残業の日々。家に帰って寝る暇もゆっくりとご飯を食べる暇もない。しかも社内では上司や同僚の妬みから、さらに仕事を押し付けられる。  (俺ってこんな人生を歩むために、遊ぶ間もなく必死に勉強し続けたのか……?)  彼は連日の寝不足と栄養不足もあってか、精神がすり減って半うつ状態に。そんな中、ある日彼は炎天下の中をふらふらと営業の外回りをする。  その時たまたま見かけたのが、路上ライブを行っていたアイドルグループの女の子たち。ふらりと吸い寄せられるように見に行った彼は、恐らく熱中症にもなりかけてて意識も朦朧としていたんだ思うけど、キラキラと輝いて見える彼女達に見つめられて、ズキュンと心を打ち抜かれた……らしい。
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