第1章

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第1章

 幼少の頃、私は夢多き子供だった。  好奇心旺盛で、お転婆で、世の中には不条理なことや悲しい事、辛いことがあるなんて全く知らない。あの頃は可能性は無限にあるんだと、そう信じて希望に溢れていた。  そんな私が抱いた初めての夢は、当時流行っていたアニメの主人公。ヒロインの女の子が悪と戦う為に魔法を使って戦士に変身するというもので、とにかく夢中になった。  たぶん強い女の子や魔法というスーパーパワーを持つことに憧れがあったんだと思う。いつか自分も悪と戦って、この世を救うんだ、なんて思っていた。  その後はお姫様、ケーキ屋さん、宇宙飛行士と夢が次々と変わっていく。でも次第にいつしか自分もお嫁さんになりたいと思うようになる。    私の両親はとても仲が良かった。  父は穏やかで優しく思いやりがあり、何より母を深く愛していた。父に愛されていた母は子供の私から見ても、本当にいつも幸せそうだった。  「お母さん、私も早くお嫁さんになりたい!」  「そうねぇ。乃愛(のあ)ならきっといつかいい人に出会って、幸せなお嫁さんになれるわよ」  そう言って母はふふっと笑っていた。  でもそんな私の夢も大きくなるにつれて、やがてヴァイオリニストになりたいと変わっていく。  ヴァイオリンは3歳の頃に習い始めた。習うと言っても最初は本当に遊び程度。母がチェリストだったこともあり、いつも楽しそうに弾いているのを見て、自分も弾いてみたいと思ったのがきっかけだった。  小さな子供用のヴァイオリンを買ってもらい、大喜びした。そして私の拙いバイオリンに合わせて、父はピアノ、母はチェロをよく一緒に弾いてくれた。
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