第3章

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 「俺は人に夢を与えるような仕事をする!」と彼は一心発起。  一流商社を退職し、知り合いのエンジニアを集めてこのゲームアプリを開発した。するとこれが大ヒット。今ではこのアプリの他、様々なゲームアプリで着実に売上を伸ばしている。  ちなみに大城社長はあの路上ライブをやっていたアイドルグループの一人と3年前に結婚した。たまに会社に社長のお弁当を持ってきたり、従業員に労いだとお菓子を持ってきたりするけど、社長がハートを打ち抜かれたのがわかるような気がする。奥さんはとても可愛らしい人だ。  「そう言えば『ミラージュ』って今回対話機能つけたんですよね?」  私はひょいっと赤嶺さんの作業しているPCをパーティションの上から覗き込んだ。  「そう。今回はさらにパワーアップしたんだよ」  「その対話機能って、何パターンとか会話文を入れてるやつですか?」  「違うんだよ。実は今回AI機能をつけたんだ」  赤嶺さんは得意げに話し出した。私は彼の説明にうんうんと相槌を打った。  「なるほどね。でもなんか怖くないですか、AIと対話するのって。だって対話からAIが色々と自分の事を学習してるんですよ。あ、そういえばこの前ネットで読んだんですけど、ある男性がAIとの対話で奥さんの悪口をツラツラと入力してたら『そんな奥さんとは別れなさい』ってアドバイスされてそれで離婚を本気で考えたとか」  すると赤嶺さんは「それは大丈夫」とまた自信ありげにPCのモニターを指差した。  「そういうネガティブな対話はこうやってフラグを立てて、AIが答えを出さない仕組みになってるんだ。ほら、だってうちの社長のモットーは『夢を売るアプリを作る!』だろ?」  そう言われてふとガラス張りの社長室を見ると、大城社長は今日も愛妻弁当を美味しそうに頬張りながら、何やらPCに向かって仕事をしている。  「そうですよね。『夢を売るアプリを作る!』、でしたね」  私はガッツポーズをして社長のマネをすると、「とりあえず、お昼食べてきまーす」と、コンビニ袋を片手にさげながら休憩室へと歩いた。
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