第3章

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   夢、か……。  ふぅーっと息を吹きかけながら温かいお茶をコクンと飲む。外は蒸し暑くて雨も降っているけど、オフィスの中は冷房がきいているので、さらっとしていて、しかも私には少し肌寒いくらい。  「あー、お茶、あったかくておいし〜」  ふぅと一息ついて、コンビニの袋からそぼろあんかけ丼を取り出すと、早速スプーンで掬って食べ始めた。  私の座っているテーブルの目の前には『バトル ディゼル』のキャラの一つ、ミウの特大ポスターがどーんと貼ってある。  「一緒に夢を追いかけよう!」というキャッチフレーズのあるポスターで、日本人離れしたスタイルのいいミウが、シルバー系ピンクのロングヘアを揺らせながら歌っている。  (一緒に夢を追いかけよう、か……。私にも夢はあったんだけどな……)  なんともポジティブで夢溢れるポスターを何気に眺めながら、もぐもぐとお昼を食べる。  あの時夢を追い続けてたら、一体今の自分はどんな人生を歩んだんだろうと、ふと考える。  もし事故をしてなくて両親が生きていたら、私は本当にヴァイオリニストになれたんだろうか?  そもそも音楽家の道は厳しい。この道で食べていくには余程の実力がなければならない。私ぐらい弾けた子はあの頃だって何人もいた。海外のコンクールにも積極的に出て経験を積んでいる子だって山のようにいた。  事故の後だって、続けようと思えば続けられたのかもしれない。でも、優勝したって、弾き続けたって、一緒に喜んでくれる人がいなければ意味がないと、あの頃はそう思っていた。よくよく考えたら私は甘ったれていたのかもしれない。  本当に夢を追いかけている人はどんな苦境にもめげずに、きっと夢を成し遂げるだろう。結局私は自分自身に負けたのだ。いろいろと理由をつけて、自ら夢を放棄した。その方が楽だったからに違いない。  天国で両親はそんな私のことをどう思っているんだろう……?  あんなに私がヴァイオリンを弾くことを喜んでくれた両親。がっかりさせてしまったんじゃないかと思うと、胸が急に苦しくなる。
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