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しばし奏さんの名刺を見つめた後、とりあえず思い切ってメッセージを送ってみることにした。
『奏さん、土曜日に弾く曲なんですが、なにかリクエストはありますか?クラシックとポップスだとどっち系統がいいですか?』
そう尋ねるとすぐに既読がついて、『クラシックがいい』と一言返ってくる。そして続けてまたすぐに『一ノ瀬さんは食べ物にアレルギーない?』とメッセージが届く。
(奏さん、メッセージの返信早いなぁ……)
思わずふっと笑みが漏れる。忙しいと聞いていたので、夜にならないと返事が返ってこないと思っていた。
『特にアレルギーはありません。それじゃ何か、クラシックの曲を数曲用意しますね』
そう返信をすると、またすぐ既読になって『楽しみにしてる』とメッセージが返ってくる。そんなやり取りだけで、なんだか口元がくすぐったくなる。
「なーに、ニヤニヤしてるのよ」
そう言いながら同僚の有永優華がいつものようにお弁当をさげて休憩室に入ってきた。
優華は私と同じ年に入社したとても優秀なプログラマーで、現在は6人ほどいるプログラマーのチームリーダーをしている。
「べ、別に、ニヤニヤなんかしてないし……」
私は少し口を尖らせると、ほんのりと染まった頬を誤魔化すように、再びそぼろあんかけ丼を食べることに集中した。
そんな私をふーんと笑いながら、彼女はお茶を入れるためにティーディスペンサーへと向かう。
「今日さー、さすがに誰もいないね。この休憩室もガラガラじゃん」
ウィーンとディスペンサーの音が休憩室にこだまする。
「まぁこれだけ雨が降ってればね。優華はなんで今日リモートにしなかったの?」
「今日さ、テスト機をデータセンターに持って行かなきゃならなかったのよ。ほら、今やってる『スノームーン』の動作確認なんだけど、やっぱり社内ネットワークの時と実際にネットに置いた時の動きが違う時もあるから。それで今日どうしても出社しなきゃならなかったんだよね』
そう言いながら彼女は湯気の立ち昇ったお茶を片手に、私とは向かい側の席に腰をおろした。
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