第3章

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 「えっ、留学?じゃ、この会社からいなくなっちゃうの?」  「うん。アメリカの大学にサティフィケートコースがあって、それでプログラミングを勉強することができるの」  そう言って、彼女は「じゃーん」とスマホを取り出して、その大学のプログラミングコースを見せてくれた。  某有名大学の中にあるサティフィケートコースで、私にはよくわからない難しそうなプログラミング言語の名前がツラツラと羅列してある。  「この過程を全部修了したら1年の労働許可がおりて、現地で働くことができるの。どの企業で働けるかわからないけど、でもずっと海外の学校へ行って、現地の会社で働くのが夢だったんだ」  「すごい!すごいよ優華!おめでとう!!!」  私は思わず自分のことのように嬉しくなって、椅子から立ち上がると彼女を抱きしめた。  入社してからこの四年、いつもお弁当を作ってきて、とにかく節約していた。きっとこの為に今まで頑張って貯金をしてたに違いない。  「本当はね、高校生の頃、向こうの大学に行ってコンピューターサイエンスを学びたいとずっと思ってたんだ。でもうちは母子家庭だし、そんなお金を母に頼むこともできなくて。それに母親を一人置いて行くこともできなかったしね。でもその母も2年前に再婚したから今では一安心」  そう言って彼女は再び嬉しそうに笑う。  「そっか。でも優華はずっと諦めずに頑張ってたんだね。偉いなぁ。じゃ、社長にはもう話してあるんだ」  「うん。春学期が始まるのは3月の下旬からだから、この会社は来年の3月中旬まで」  「そっかぁ、今は9月下旬だから、あと半年もないんだ……」  嬉しい反面、何だかとてもさみしい気分になる。彼女とはこの4年、入社した時からずっと一緒だった。  「確かに子供の頃に思い描いていた夢とは少し違うけど、でもずっと自分がやりたかった事には変わりないから。だから叶って嬉しい」  そう言って彼女は、満面の笑みになる。  私はそんな彼女をずっといつまでも見つめていた。
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