第1章

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 「乃愛、上手に弾けるようになったわね!」  「よし!クリスマスは皆で演奏会でも開くか?」  なんて笑いながら、両親は小さな私の頭を撫でてくれた。そしてそれが私にとって、唯一の楽しみとなった。  褒めてもらえるのが嬉しい。喜んでもらえるのが嬉しい。皆んなで一緒に弾くのが楽しい。  そうして私はメキメキとヴァイオリンの腕を上げ、有名な先生からレッスンも受けるようになって、次第にコンクールで入賞や優勝をするようになる。  「乃愛、おめでとう!お前には素晴らしい才能がある。本当に父さんの自慢の娘だよ」  「乃愛、すごく上手だったわよ!毎日練習頑張ったものね。今日は皆でお祝いをしましょう!」  両親に抱きしめられ、私は満面の笑顔になる。  私にとってヴァイオリンを弾くということは、愛する人の喜んでいる笑顔を見る為。そして何よりも一緒に楽しく弾く為。  いつかヴァイオリンの先生になって、子供達にこの楽しさを教えたい。もしくは母のように市の交響楽団に入って、この美しい音色で誰かの心に届きたい――…  そんな夢を抱えて、毎日ヴァイオリンを弾き続けた。毎日がとても充実していた。  でも、その夢はある日突然、粉々に砕け散る。  16歳の時、コンサートで共演を終えた帰り道、大型トラックなど10台以上の車を巻き込んだ玉突き事故に巻き込まれた。  突然の豪雨で視界も道路も悪くなった高速道路での大事故。原因は身勝手で無責任な男が起こした、煽り運転だった。  4人が死亡、5人が重体、10人以上が怪我を負った悲惨な事件。当時この事故はニュースでも大きく報道され、その後煽り運転に対する法改正も行われた。  でもこの事故で私は全てを失った。前部座席にいた父と母は即死だった。私は一命はとりとめたものの、左腕に重傷を負った。
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