第4章

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 (綺麗なヴァイオリン――…)  f字孔と呼ばれるボディーに刻まれた孔から中をそっと覗いてみる。そこにはラベルがあって、   Nicolaus Gagliano Filius Alexandri fecit Neap. 1752.  と書いてある。  もし本物のガリアーノのヴァイオリンなら、3千万とか4千万はするとても高級な楽器だ。多分弓だけで何百万もする。  こんな小さな楽器が、安い家を買えるぐらいの値段とはなんだか信じられない。特にストラディバリウスなんか、12億とかその辺の豪邸よりも高い値段がする。  ふうーっと大きく息を吐く。とても大切で歴史的にも楽器的にも価値のあるヴァイオリンを手にしていることに流石に緊張する。  指先で、G、D、A、E弦をはじく。やっぱり半年以上も弾いてないから音がズレている。  「チューニングしますね。その後、少しだけ練習する時間をいただいてもいいですか?」  「もちろん。じゃ、準備ができたら教えて」  「はい」  私は自分のヴァイオリンケースから肩当てを取り出すと、慎重にガリアーノのヴァイオリンに取り付けた。  以前ストラディバリウスを貸与されている有名なヴァイオリニストが、これを失くしたら臓器を売らなきゃいけないと冗談を言っていたけど、壊したりしたら本当に洒落にならない。  弓をケースから受け取ると、チューニングアジャスターとペグを両方使いながらチューニングをする。そしてチューニングが終わると、今度は簡単に音階を弾いてみる。すると綺麗な澄んだ音が静かなリビングに響き渡る。  自分のヴァイオリンとは全く違う音に、耳を澄ませる。この何百年、腕あるヴァイオリニスト達が弾いてきたヴァイオリンを今自分が手にしているのかと思うととても感慨深い。
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