第4章

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 「こんなに美しい音色だったんだな……。とても10年のブランクがあるとは思えない腕前だ」  奏さんは感銘を受けたようにしみじみと呟くと、カウチから立ち上がった。  「実は君に渡す物があるんだ。ちょっと待ってて」  と玄関へと歩いた。ちょうどその時ドアにノックがあり奏さんは扉を開ける。そして扉の向こうの誰かと少し話した後、なんと大きな花束とワインを持って戻ってきた。  「とても素晴らしい演奏だった。ありがとう。これは俺からのお礼だ」  (わぁ……すっごい立派な花束!)  私は驚いて目を丸くする。バラの花が100本近くあるんじゃないかと思うほどの立派な花束だ。  「ありがとうございます。食事もご馳走になるのに、こんな花束までいただいてしまって」  私はすっかり恐縮しながら、その立派な花束を受け取る。正直、こんな大きな薔薇の花束を貰うなんて人生初めてだ。  「それじゃ、君へのもう一つのプレゼントも開けようか」  奏さんはワインを持ったままキッチンへと向かう。そしてキュポンとボトルを開けると、ワインをグラスに注いだ。  その後、私達は彼が作ってくれた料理をワインと一緒に味わう。なんと彼が作ってくれたのは、私が大好きなパエリアだった。  「奏さん、これ初めて作ったんですよね。レストランで食べるよりもずっと美味しいです!」  私は口の中へパエリアを運びながら感嘆の声を上げた。過去に何回か自分でも挑戦したことがあるけど、水加減が全然わからなくて何度も失敗した記憶がある。    「器用貧乏って言うのかな。昔からあまり興味がない物でもなんとなく器用にこなしてしまうんだ」  「すごい!羨ましいなぁ。私も奏さんみたいになんでも器用にこなせたらな」  私は笑いながら、またパエリアを一口口の中に入れる。  高級なワインと、それにサフランと魚介類の香り、そしてトマトやガーリックの味が口の中で絶妙なバランスで弾ける。本当に美味しくて、何度も感動してしまう。
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