第4章

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 「君が詐欺容疑で逮捕されたら弁護人になってもいいと思ってる」  「さ、詐欺容疑……?」  私は思い切り狼狽えてしまう。なぜここでいきなり詐欺容疑の話になるのか、急に心臓がドクドクと信じられないほど速く早鐘をうち始める。  「そう。警察が追っているあの特殊詐欺だ。知っての通り、裕福な老人から高価な骨董品などが盗まれて闇オークションなどで売られてる。被害総額も膨大だ」  奏さんはワイングラスを手にすると一口それをゆっくりと口に含んだ。そんな彼を、私はただひたすら呆然と見つめる。  「君も既にわかっていると思うが、佐藤という秘書はあの不動産会社には存在しない。もちろんこの女が実在するのかさえ確認が今のところ取れていない。でも君は普通の人があまり知らないようなあのガリアーノのヴァイオリンの価値をよく知っていた。君は今のところ重要参考人、もしくは被疑者だ。君が逮捕される可能性は十分ある」  まさか自分の置かれている状況がそんなにも深刻だったとは知らず、私はその言葉に一気に青ざめる。急に先ほど奏さんに演奏した、あのガリアーノのヴァイオリンをハッと振り返った。  「あ、あのヴァイオリン、今日私が弾くことを肇さんに許可をとってるんですよね?」  自分でも信じられないほど声が震えている。  「取ってない。俺が勝手に持ち出した」  「ど、どうして!?」  私はガタンと椅子から立ち上がった。  「肇さんに話しておくって約束したじゃないですか!そもそも私が詐欺の容疑で逮捕される可能性があるって知ってたのなら、なぜわざわざこのガリアーノのヴァイオリンを弾いてくれだなんて頼んだんですか?」  彼の涼しげな顔を思わず睨んだ。彼は弁護士だ。そんなことをすれば被疑者である私の立場が更に悪くなる事くらい容易に想像できたはず。  それによくよく考えてみたら、このガリアーノの音色が聞きたければ、何も私に頼まなくても、他にツテはいくらでもあったはずだ。    私は怒りでふるふると体を震わせた。それと同時にまたハメられた自分にもいい加減嫌になってくる。
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