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「彼女が悪いんじゃない。彼女のような純粋な人間を騙そうとする奴らが悪いんだ」
奏はそこでキーボードをたたいている手を止めると、ぎりっと奥歯を噛み締めた。彼女や自分の祖母のような善良な人間を傷つける奴らは絶対に許さない。必ずそれ相応の対価を払わせてやる。
《とにかく、これ以上彼女には深入りするな》
「それは無理だな。彼女と付き合うことにしたんだ。今日から一緒に俺のマンションで住むことになっている」
《はぁ!?なんだその話は!?俺は聞いてないぞ》
「今聞いただろ。忙しいんだ。じゃあな」
《あ、おい、ちょっと待て!!》
通話終了ボタンを押そうとしていた奏は手を一旦止めた。
「なんだ」
《………あの一ノ瀬乃愛って子、あの事故の被害者なんだろ。この10年、何にも全く興味がなかったお前がいきなり興味を示したんだ。そりゃ気になって調べたくもなる。それに一ノ瀬乃愛って何処かで聞いたことあるなと思ったんだよな》
奏は黙ったまま、ただじっと自分の握りしめた拳を見つめる。
《お前の気持ちがわからないわけじゃない。でもそれとこれとは話が別だ。いいか、悪い事は言わない。今すぐに手を引くんだ》
手なんか引くわけがない。偶然とはいえ、ずっと欲しかったものがついに手に入ったんだ。絶対に何があっても手放しはしない。例えあの半年という契約が切れても、だ。
「いいか。彼女を逮捕して起訴なんかしてみろ。全力で彼女を弁護する。誤認逮捕で賠償請求してやる」
《お前なぁ!一体どっちの味方なんだよ。俺らを敵に回す気か?》
「いいか。彼女は被害者だ。彼女は何かに巻き込まれてるんだ。あの黒崎とかいう奴をちゃんと調べたのか?」
《調べたよ。でも特に何も怪しいところなんかない》
「だったらもっとしっかり調べるんだな。奴の隠し口座とか」
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