第5章 (side kanade)

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 《お前さ、なんで弁護士になったんだ?優秀な警察官になれたのに。せめて検察官になればよかっただろ》  「検察官なら従兄弟の渉がすでにやってるだろ」  それを聞いた肇は、低く不満気な唸り声をあげた。  《とにかく、勝手にあんま変なことするなよ。そういえばあのガリアーノのヴァイオリンどうした?》  「彼女に弾かせてる」  《はぁ!?お前は馬鹿か!?》  「祖母さんにはちゃんと許可をとってるよ。そもそも彼女にあのヴァイオリンをあげたのに、なんで戻ってきたんだって怒ってたぞ。じゃあな。忙しいんだ。またな」  あ、おい待て――…と電話の向こうから聞こえてくるのを無視して、奏は通話終了ボタンを押した。  ふぅーっと大きく息を吐くと、椅子にもたれ掛かって目を閉じる。すると乃愛の笑顔がすぐに脳裏に浮かんでしまう。  「やっぱ、今日はこれで帰るか。明日7時に出社すれば間に合うか……」  奏は頭の中でスケジュールをもう一度確認し直す。そして再び目を開くと、帰宅するため荷物をまとめ始めた。 *  カチャリ――…  日付が変わった頃、ようやく家に帰宅した奏は玄関のドアを静かに開けた。  しーんと静まり返った家の中はいつものように真っ暗で、本当に彼女はここにいるのかと一瞬不安になる。  でも彼女の並んだ靴が玄関にあるのを見てホッと胸を撫で下ろすと、早速寝室へと向かった。  リビングの奥にあるグレーのドアをキィ……と静かに開ける。すると奏のベッドで、すやすやと寝息を立てている彼女の姿が見える。  奏は足音を立てないように静かにベッドまで歩み寄ると、彼女の寝ている隣に腰をおろした。    そっと顔にかかった髪の毛を優しく払いのける。その綺麗な顔を見た途端、懐かしさと愛しさが心から溢れ出す。  「ごめんな。少し強引だったよな」  彼女に一緒のベッドで寝たいと言った時のあの嫌そうな顔を思い出して、ふっと笑いが溢れる。おそらく自分は彼女から相当嫌われている。  彼女を護るためだったとはいえ、少々やり過ぎたかなと思う。でも後悔をしているかといえば、そうではない。
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