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「ずっと君に会いたいと思っていた」
奏は懐かしそうに目を細めながら、指先でそっと彼女の頬に触れる。
透き通るような真っ白な肌に、大きく澄んだ美しい瞳はあの時のままだ。長いまつ毛は綺麗にカールしていて、それが大きな目と相まってか、少し日本人離れしているようにも見える。
オリーブベージュのロングヘアは今でも昔と同じだ。サラサラの髪は肩の下まで伸びている。
でも10年前にあったあの少女のようなあどけなさはない。今ではすっかり成熟した、大人の女性だ。
「あの時も綺麗な子だと思ったけど、随分と美しい女性になったんだな……」
奏はそう呟きながら、じっと彼女の寝顔を見つめる。
10年前のあの夜は、今でも昨日のようにはっきりと覚えている。
当時の奏は大学2年生で、肇と同じように警察官になる道を歩んでいた。
ただ歩んでいたと言っても、別に警察官という職業に思い入れがあったわけでも情熱があったわけでもない。でもだからと言って他に何かなりたかったものがあったわけでもない。
奏は子供の頃からどちらかというと無口で無表情な方で、あまり感情の起伏がない。それに加え少々自分勝手な性格もあり、何かに興味を持ったり夢中になるような事なんて滅多にない。
もちろん恋に落ちて誰かを好きになるということもないので、女性との付き合いもただ快楽を求めるいい加減な体の関係ばかり。
ただ漠然と親の敷いたレールの上を歩き、特に目標や何かやりたい事があるわけでもないので全てが適当、女性とは遊ぶだけの爛れた生活ばかり。
あの夜も奏がそんな適当に生きていた日の一つ。たまたま友人に呼ばれた派手なパーティーを楽しんだ後の帰り道だった。
突然のスコールのような豪雨の中で起きた大事故。
運良く怪我が軽かった奏は、他の人と一緒になって救急車が来るまで怪我人の確認や救助活動を行っていた。
その時に奏が助け出した怪我人の一人が、乃愛だった。
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