第5章 (side kanade)

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  (あの子は今どうしてるんだろう……)  事故のニュースを見るたびに、そして夜目を閉じるたびに、自分が助け出したあの女の子のことが頭から離れない。  そんな中、ある日奏は偶然SNS上で彼女の動画を目にする。  おそらく高校の友達か誰かが、彼らなりの方法で彼女を励まそうとアップしたものなのだろう。彼女が小さい頃の動画やコンクールで優勝した時のものなどがSNS上にいくつか投稿してあるのを見つける。  (へぇ……あの子、ヴァイオリニストなのか……。すごいな、こんな難しい曲を弾くなんて)  一つ一つ彼女の演奏動画を眺めながら、奏は感心する。とても16歳とは思えない腕前だ。  そんな時ふと彼女が4、5歳くらいの頃の、コンサートか内輪だけの発表会をしている動画に目が留まる。  小さな乃愛が観客にお辞儀をすると、ピアノの伴奏に合わせてヴァイオリンを真剣な顔でギコギコ弾いている。  (ふっ、可愛いな……)  小さな彼女のお世辞にもあまり上手とは言えない演奏に思わずクスリと笑みが溢れる。  でもそんな彼女を可愛らしいと思うと同時に、羨ましいとも思った。小さい頃からちゃんとした目標を持っていて、それに向かってまっすぐ前進している。  (俺がこのくらいの歳の頃なんて、将来の夢なんか考えもしなかったな。まぁ今でも大した目標があるわけでもないけどな……)  そんなにも何かに夢中になれる彼女の姿に目が釘付けになる。何事にも興味も執着もわかない自分とはまるで正反対だ。  (いつか彼女の演奏を聴いてみたいな……)  彼女の動画を見ながら、直接彼女の演奏を聴いてみたいと思うようになる。それにあの彼女にもう一度会ってみたいと思った。  でもどれだけ待っても彼女が再びステージに現れることはなかった。  しばらくして風の噂で、両親を失った彼女は神戸にいる祖父母に引き取られたと聞いた。そして大学も、音大ではなく神戸のどこかの大学に行ったと聞いた。
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