第6章

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  (もう……本当にしょうがないな……)  まぁキスなんて減るもんじゃないし……。私は恥ずかしさをぐっと飲み込むと、屈んで彼の頬にキスをした。  「はい、キスしました」  「なんだ、今の」  まったく信じられないといった表情で、再び逃げようとする私をぐっと引き寄せる。  「キスしてって言ったからキスしたんじゃないですか!」  「あんなのキスのうちに入らない」  「もう、そんなの知りません!別に頬だっていいじゃないですか。とにかく早くこのココナッツウォーターでも飲んで休んでください」  「乃愛」  今度は甘く低い声で私を呼ぶと、必死に逃れようとする私の体にさらに腕を巻きつけてグイッと引き寄せる。するとバランスを崩して奏さんの上に倒れてしまう。  彼は私を支えながら力強い腕でベッドの上に引っ張り上げた。気がつけば膝の上に乗せられて、腕の中にすっぽりと包まれている。    あのいつもの官能的な香りがふわりと鼻腔をくすぐる。  実はこの香り、香水のラストノートだと先日気付いた。香水そのものの香りじゃなくて、彼自身の香りだ。  「奏さん、私の嫌がることはしないって言ったじゃないですか!」  私は顔を真っ赤にしながらも必死になんとか距離を取ろうとする。彼に振り回されていちいち顔が赤くなる自分にも大概嫌になってくる。  「……触られるのも嫌?俺のことがそんなに嫌?」  彼はそう囁くと、私を抱きしめていた腕をふっと緩める。その途端、急に彼の温もりがなくなって、何故か寂しくなってしまう。  「……あんなやり方をされたら誰だって怒ります」  でも……嫌……じゃない。他の人だったらキレてたかもしれないけど、いや奏さんでもかなりキレたけど、ただもう少し時間が欲しかっただけで、彼が……嫌なわけじゃない。
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