第1章

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 子供の頃からの夢を叶えられる人間なんてそうそういるわけじゃない。夢は努力と実力と、そしてちょっとした運が必要だと思う。    私の場合、努力はした。実力もそこそこあったと思う。でも人生いつどこでどんな変化球がくるかわからない。  そういう意味で、あの事故は本当に運が悪かったとしか言いようがない。そう今では達観して、あまり過去を振り返らないようにしている。  10年前のあの夜、父は横から滑るようにぶつかってきた大型トラックから私を守るように咄嗟にハンドルを切った。そして自らの命と母の命を引き換えに、私の命を救った。  そんな両親が私に望んだのはたった一つ。  「乃愛、どんな道を進んでもいいのよ。でも、あなたが必ず幸せになれると思う道を進みなさい」  両親は私にありったけの愛情を注いでくれた。とても大切に育ててくれた。そんな両親の想いを、命を、決して無駄にしたくはない。  そう思いながら、今は日々の中に小さな幸せを見つけては頑張って生きている。  確かに両親は他界してしまったけど、幸い私にはまだ愛してくれる祖母もいる。仲の良い従兄弟や親戚だっているし、信頼できる友達だって何人かいる。私は独りぼっちじゃない。  それにヴァイオリニストになるという大きな夢は失くしてしまったけど、出来るものなら……また小さな夢でも見つけてそれに向かって生きていけたらいいなと思う。  そしていつか……愛する男性に出会って、父と母のように温かく愛に溢れた家庭を築いていけたら――…  そんな想いを胸に抱きながら、私は慎ましく真面目に毎日を生きている。  …………はず………………だった。
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