第6章

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 「確かに強引だったと思ってる」  彼は一旦そこで言葉を切ると、しばし沈黙した。  「……俺が嫌い?」  再び尋ねられ、一瞬戸惑ったもののフルフルと横に小さく首を振った。  奏さんのことは嫌いじゃない。好きかどうかはまだわからないけど、初めて出会った時から素敵な人だなとは本当に思ってる。  ただ……彼のことがいまだよくわからない。私が欲しかったといきなりこんな強引な事をするのもあるけど、彼の真意が本当はどこにあるのかよく見えなくて、足踏みをしてしまう。  「乃愛」  優しい声で呼ばれて視線をあげると、穏やかに私を見つめている彼と視線が絡み合う。  「頭痛はもう大丈夫なんですか?」  彼の顔色は徐々に良くなっているものの、まだまだ悪い。でも帰ってきた直後のように頭が割れそうな程痛いわけじゃなさそうだ。  「キスしてくれたら治る」  その言葉に思わず呆れた笑いが漏れた。これじゃまるで「No」を絶対に受け付けない、駄々をこねてる子供と一緒だ。  奏さんは私の呆れた笑みを見て、口角をふっと上に持ち上げた。  「奏さんってもしかして頑固ですか?もしくはしつこいとか」  「そこは粘り強いと言って欲しい」  粘り強いというのか、何がなんでも我を通そうとするちょっと自分勝手なところがあるというか…………本当に困った人だ。  私はコホンと咳払いをした。  「キスは1日1回までです。今日の分はさっきので終わりです。それ以降は料金が発生します」  それを聞いた奏さんはニヤリと笑った。  「だったら払う。いくらだ?」  そう言って、本当にベッド傍に置いた鞄に手を伸ばそうとする。  「も、もう、冗談です!とにかくキスはもうしません!」  私が思わず彼の胸を拳で軽くたたくと、奏さんは声を出して笑いだした。  「顔、真っ赤」  「だ、だって急にキスしてとかそんなデリカシーのないことばっかり言うから……!」  彼にいいように手のひらで転がされて、悔しくてポカポカと彼の胸をたたく。そんな私を奏さんは笑いながら見つめている。
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