第6章

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 「そういえば、今週の土曜日なにか予定ある?」  「土曜日ですか?予定というか……家がまだ全部片付いていないのでそれを早く終わらせないと……」  今は10月の上旬。家の貸し出しは11月からになっていて、少なくとも来週末までに家をほぼ全て片付け終わらなければならない。  先週末は土日と一日中奏さんに手伝ってもらったおかげでかなり捗った。でも本当に物が次から次へと湧き出てきて一向に終わらない。  ただ全てを箱詰めするだけなら引越し業者に頼めばいいんだけど、両親の遺品の整理もあって、捨てる物と捨てないで手元に残しておく物の仕分け作業が本当に大変なのだ。  とにかく新しい家族が入る前にクリーニングサービスに入ってもらったり、修理しなければならない箇所を全て修理してもらったりしなければならない。その事を考えるとやっぱり来週末までには全て引っ越し作業を終えたい。  「もちろん俺も引越しの手伝いをする。でも土曜日の午前中、ちょっと連れて行きたいところがあるんだ」  「連れて行きたいところ……ですか……?」  どこだろう……?もしかして水族館とかなのかな。よくよく考えると恋人になってくれと言われてからデートらしいことなんか何もしていない。  とりあえずデートっぽいことをしてみたいんだろうか……?  「わ、わかりました」  「きっと気にいると思う」  奏さんは嬉しそうに頷くと、目を閉じて大きく息を吐き出した。  「それにしても君の側にいると、落ち着くな」  そう言って腕に力を入れて抱き寄せた。  「今までずっと一人暮らししてたから気付かなかったけど、家に帰るとこうして誰かがいて、触れ合う時間があるのは心が落ち着く」  そう言われてみると、私もずっと一人暮らしだった。家に帰った後、こうして誰かと一緒に過ごすのは久しぶりかもしれない。しかもこんな風に誰かと触れ合うなんて久しぶり……いや、家族以外なら初めてかもしれない。  奏さんのトクントクンという安定した心臓の鼓動が耳に伝わってくる。その心地よい音に私はそっと目を伏せる。  長いこと一人ぼっちですっかり忘れていたけど、確かに彼の言う通り、こうして誰かと触れ合うのは心が落ち着くかもしれない……とそう思った。
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