第6章

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 「えっと、他には何かある?以上ですか?」  私は一人一人見回すと、質問がないのでミーティングを解散する。ノートパソコンをパタンと閉じて他の人と同じように席から立ち上がった。  「あー腹減ったな。今からメシ行かね?」  会議室を出ながらバックエンドエンジニアで5人のエンジニアチームのリーダーでもある古賀(こが)優斗(ゆうと)くんが周りにいる私達に話しかける。  「あそこの中華料理行くか?今月金曜日はランチ割引してんだよ」  「えっ、その中華料理ってリーさんの所?」  私はこのオフィスビルから5分ほど歩いたところにある小さな中華料理屋を思い浮かべた。中国人の元気の良いオーナーが経営していて、口調はちょっときついけど、料理はすごく美味しい。  「そ、一緒に行く?」  遊馬くんが後ろを歩いていた私を振り返る。  「あー、行きたいんだけど、今からちょっと用事があって」  今日のお昼は黒崎さんのところに家の契約書を取りに行くことになっている。でもあそこの小籠包のことを考えるとお腹がギュルーと鳴りそうになって、慌てて片手でお腹を押さえた。そんな私を見て遊馬くんが笑う。  「腹減ってんだろ。テイクアウトしてこようか?」  「えっ?いいの?だったら小籠包欲しいな。あ、ちょっと待って。先にお金払う」  私は慌てて自分のデスクにお財布を取りに行こうとする。でも遊馬くんはポンポンと私の頭を撫でた。  「いいって。小籠包くらい奢ってやるよ」  「え、でも……」  「一ノ瀬さん、いいから奢って貰いなよ。俺たちもどうせ奢って貰うんだし」  サウンドクリエーターでお調子者の梶川(かじかわ)(りく)くんがそう冗談を言いながら遊馬くんの肩をたたく。  「んなわけないだろ。お前、この前の焼肉だっていくら食ったと思ってんだよ」  「なんだよ、ケチくさいなー」  そう笑いながら遊馬くん達は一緒にエレベーターホールへと去っていく。  「遊馬くん、ありがとう!今度は私が奢るね!」  そう大声でお礼を言うと、彼はヒラヒラと手を振る。それを見届けると、私は早速自分のバッグを取りにデスクへと戻った。
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