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「小籠包……小籠包……」
と歌いながらバッグを持ってエレベーターホールへと向かう。
「あ、お疲れです、乃愛さん。今からランチですか?」
「七美さん、お疲れ様。違うの。今からちょっと行くところがあって。でも遊馬くんが小籠包テイクアウトしてきてくれるの」
香月七美さんはシナリオライターで、小柄でショートカットのよく似合う可愛い女性だ。去年この会社に入社してきた人で、私より1歳年下の25歳。とてもテキパキというかハキハキと物を言う人で、私はそんな裏表ない彼女をとても気に入っている。
「あ、もしかして、あの中国人の人がやってる中華料理屋さんですか?」
「そうなの。あそこ美味しいんだよね。今月金曜日はランチが割引なんだって」
「へー、いいこと聞いたな。来週行ってみようかな」
チンとエレベーターの扉が開いて、私と七美さんは一緒にエレベーターへと乗り込んだ。一階へのボタンを押すとスーッとドアが閉まる。
「あれ?乃愛さん、香水変えました?」
動くエレベーターの中で七美さんは突然クンクンと鼻を動かす。
「えっ?」
「あ、これ男性用の香水だ」
「ええっ!?」
私は驚いて七美さんを呆然と見つめる。
そう言えば、今朝また奏さんがキスしてと言い出して、玄関で一悶着あったのを思い出す。たぶんその時に移香がついたんだと思うけど、それにしても七美さん……前世は警察犬……?
その場でなんと反応していいかわからなくて硬直していると、チーンとエレベーターのドアが一階で開く。
「乃愛さん、ついに彼氏ができたんですね。おめでとうございます」
七美さんはさらりと言いながらエレベーターから出る。私は顔を真っ赤にしながら彼女の後を続いた。
「ち、違うの。その彼氏っていうか、その……半年間だけの恋人っていうか……」
「なんですか、それ。もしかして今流行りの契約結婚ならぬ契約恋人とかですか?もしかして女避けに恋人になって欲しいとかそんなやつですか?」
「ち、違うの。そうじゃなくって、その……実は――…」
私は一瞬迷うものの、いろいろな恋愛ゲームのシナリオやキャラクターを書いている彼女ならなんと思うか意見を聞きたくて、歩きながら彼女に全てを話すことにした。
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