第6章

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 「小籠包……小籠包……」  と歌いながらバッグを持ってエレベーターホールへと向かう。  「あ、お疲れです、乃愛さん。今からランチですか?」  「七美さん、お疲れ様。違うの。今からちょっと行くところがあって。でも遊馬くんが小籠包テイクアウトしてきてくれるの」  香月(こうづき)七美(ななみ)さんはシナリオライターで、小柄でショートカットのよく似合う可愛い女性だ。去年この会社に入社してきた人で、私より1歳年下の25歳。とてもテキパキというかハキハキと物を言う人で、私はそんな裏表ない彼女をとても気に入っている。  「あ、もしかして、あの中国人の人がやってる中華料理屋さんですか?」  「そうなの。あそこ美味しいんだよね。今月金曜日はランチが割引なんだって」  「へー、いいこと聞いたな。来週行ってみようかな」  チンとエレベーターの扉が開いて、私と七美さんは一緒にエレベーターへと乗り込んだ。一階へのボタンを押すとスーッとドアが閉まる。  「あれ?乃愛さん、香水変えました?」  動くエレベーターの中で七美さんは突然クンクンと鼻を動かす。  「えっ?」  「あ、これ男性用の香水だ」  「ええっ!?」  私は驚いて七美さんを呆然と見つめる。  そう言えば、今朝また奏さんがキスしてと言い出して、玄関で一悶着あったのを思い出す。たぶんその時に移香がついたんだと思うけど、それにしても七美さん……前世は警察犬……?  その場でなんと反応していいかわからなくて硬直していると、チーンとエレベーターのドアが一階で開く。  「乃愛さん、ついに彼氏ができたんですね。おめでとうございます」  七美さんはさらりと言いながらエレベーターから出る。私は顔を真っ赤にしながら彼女の後を続いた。  「ち、違うの。その彼氏っていうか、その……半年間だけの恋人っていうか……」  「なんですか、それ。もしかして今流行りの契約結婚ならぬ契約恋人とかですか?もしかして女避けに恋人になって欲しいとかそんなやつですか?」  「ち、違うの。そうじゃなくって、その……実は――…」  私は一瞬迷うものの、いろいろな恋愛ゲームのシナリオやキャラクターを書いている彼女ならなんと思うか意見を聞きたくて、歩きながら彼女に全てを話すことにした。
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