第6章

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 「でも、新しい恋や愛がその傷ついた心を癒してくれるのかもしれない。だから私達は前へ前へと前進できる。乃愛さん、誰かと深く関わってみるのも自分を知る一つですよ。そうする事で、色々と見えてくるものもあります。きっとそのうち彼の真意も見えてくるんじゃないでしょうか。じゃ、わたし銀行に寄らないといけないんで」  七美さんはそう言うと、横断歩道を渡っていく。  私はその場に立ち止まったまま、彼女が人混みの中へ消えていくのをしばし見ていた。 *  黒崎さんのオフィスは私の会社から2ブロックほど離れた場所のオフィスビルの中にある。  おしゃれで黒いモダンなビルで、受付になっている2階は観葉植物が沢山置いてあってとても爽やかな感じがする。  「すみません。一ノ瀬と申しますが、黒崎社長はいらっしゃいますでしょうか……?」  【KKプライムプロパティ】と書かれたロゴのある受付で、私は女性に話しかけた。  「はい、一ノ瀬様ですね、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」  受付にいたスタッフの女性は早速私をオフィスの奥へと案内する。  オフィスの中も受付と同じ雰囲気で、観葉植物がたくさん置いてあり、大きな窓からは日の光が差し込んでとても明るい。  ところどころに接客用のブースが設けられているものの、全体的に開放的な綺麗なオフィス。  従業員が実際何人いるかわからないけど、今2階にあるこのフロアには少なくとも15人近いスタッフが接客したり電話対応などしているのが見える。  この上にある3階も彼のオフィススペースになっていて、そっちはおそらく他の従業員や彼の社長室があるスペースになっているんだと思う。  オフィスの中をキョロキョロと見回しながら女性スタッフの後に続いて歩いていると、やがて一番奥にある接客用の小さな部屋へと案内される。  「こちらで少々お待ちください。今黒崎は接客中ですがすぐにこちらに参ります」  「ありがとうございます」  私は彼女にお礼を言うと、目の前にある椅子に腰を掛けた。
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