第1章

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 「はーい、そこのあなた。ちょっとこちらに来ていただけますか?」  突然目の前に怖そうなスーツ姿の男性が現れ、サッと私の行く手を阻む。同時に後ろから私服姿の男女がわらわらと駆け寄ってくる。  「え……?な、なに!?」  思わずその場に立ち止まり、びくりと身構える。彼らは一気に私をとり囲むと、歩道の隅へと誘導した。通行人が何事だろうと、チラチラと私達を見ている。  目の前の男はスーツの胸ポケットから手帳を取り出すと、それを素早く広げて私の顔に突きつけた。  「へっ……?」  そこにある顔写真付きIDと、警視庁と彫られた金のエンブレムに大きく目を見開く。  「ええっ、け、警察!??」  生まれて初めて見る警察手帳に思わず上擦った声を上げた。  「ちょっとお聞きしたいことがあります。署までご同行願えますか?」  男はぱたんと警察手帳を閉じると、慣れた手つきで手帳を胸ポケットにしまった。  (え、ちょ、ちょっと待って……。私、警察に捕まるようなことした!?)  超高速で頭の中をフル回転させる。記憶を辿り、よくよく考えてみる。  そういえば、まだ赤信号だった時に無視して何度か歩道を渡ったことがある。一瞬それかと思うものの、はっ、と最近よく不埒で過激表現のあるウェブ小説や漫画を読んでいる事が脳裏をよぎる。  (もしかして、ああいうネット小説や漫画を毎日読むのは犯罪だったとか!?もしかして読んだ内容が違法だったとか!?ま、まさかスマホの閲覧履歴をチェックされるんじゃ……)  たらりと変な汗が背筋を這う。  「あ、あの、署まで同行って任意ですか?聞きたい事って、一体どういう件で……」  かなりうろたえながら目の前の刑事さんにおずおずと尋ねる。心臓が信じられないほどドキドキと早鐘を打つ。
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