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「いや、だからさっきから何度も言ってますけど、私はただ単に頼まれて取りに行っただけで、中身がそんな高価なものだったなんて本当に知らなかったんです!」
確かにそんな高価な物とは知らなかった、で済むような話じゃないかもしれない。
ニコロ・ガリアーノは18世紀のナポリの弦楽器製作者で有名なガリアーノ家の一人だ。彼の制作したヴァイオリンは保存状態などにもよるけど、3千万はくだらない。
「まぁ、捕まったら皆そう言うんだけど、受け子は立派な犯罪だからね」
「う、受け子!?ちょ、ちょっと刑事さん、本当に何も知らなかったんです!!それと、そこの刑事さん!私の一挙一動をいちいちメモに書かないでください!」
目の前にいる、警視庁捜査二課の荻野刑事に私は思わず反論する。それと同時に、彼の隣にいる私と歳のあまり変わらない藤井刑事もキッと睨んだ。
「でも、これが仕事ですし……」
新米らしきショートカットの女刑事さんは、再びペンを走らせながらボソリと呟く。
「えーっと、一ノ瀬乃愛さん?」
荻野刑事は先ほど私が話した内容が書き込んであるメモをペンでコツコツ叩いた。
「もう一度確認しますけど、昨日佐藤さんという女性から、鵜飼さんのお宅に訪ねてヴァイオリンを受け取るよう、そう指示があったということですね」
「そうです!」
私はぶんぶんと首を縦に振った。
「で、この女性は黒崎さんというあなたの知り合いである会社経営者の秘書だと」
「そ、そうです。彼女が黒崎さんからの伝言で、鵜飼さんからヴァイオリンを受け取って一時預かってもらえないかと言われました」
実際彼女は秘書だと言っていたし、黒崎さんのことも会社の事もよく知っている口調だった。だから疑いもしなかった。
「で、この女性は20代後半で、スタイルも良くてダークブラウンのロングヘアだったと」
「はい。それにこう、胸もこんな感じで大きかったです」
そう言って私は手振りで彼女のこれ見よがしに大きかった胸を説明した。
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