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プロローグ
「痛い……痛いよ……。誰か……助けて……」
激しい痛みにうめき声を上げる。自分の血なのか、それとも他の誰かの血なのか、ポタポタと目の前を真っ赤に染める。
横転した車内の中は何もかもぐちゃぐちゃで、窓ガラスの破片がいたるところに散乱している。焦げたタイヤの匂い……ガソリンの匂い……それに白い煙も車内に充満している。
壊れた窓から外を見ると、雷と激しい雨が地面を叩きつける中、人々のうめき声や叫び声があちこちから聞こえてくる。
「……お父さん……お母さん……」
前部座席にいる両親に声を絞り出して呼びかけるが、何も聞こえてこない。
「う……っ」
体を動かそうとすると激痛が走る。ふと腕を動かそうとすると、左腕は折れているのか全く動かない。
(左手が……大切な手が……)
どこもかしこも痛くて、息をつくのさえ辛い。特にシートベルトをしている肩から下腹部にかけては激しい痛みがある。
「お母さん……、お父さんっ……!」
再び両親に呼びかけるが、返事は全く返ってこない。
遠くから何台もの救急車のサイレンの音が聞こえてくる。私は力なく目を閉じた。
どーん、と再び大きな落雷の音が辺りを震わせ、目を閉じていてもカッと目の前が一瞬稲光で明るくなる。
激しい雨が壊れた窓からどんどん降り注ぐ。顔に、薄手のドレスにと、激しく打ち付ける。
体温がどんどん下がってきて、意識が次第に遠のいてきた、その時――…
「おい、大丈夫か!しっかりしろ!」
誰かが必死に私を呼ぶ声に、意識が引き戻される。ゆっくり目を開けると、顔から血を流した若い男性が車内を覗き込んでいた。
おそらく同じように事故に巻き込まれた人なのだろう。自分も怪我をしているのに、必死に車内に閉じ込められた私を助けようと手を伸ばしてくる。
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