リフレッシュ!

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 当日の昼過ぎ、待ち合わせ場所で困惑することになった。なぜなら、数万人が黒ヒョウのイラストが描かれている黒いユニフォームを着ていたからだ。目の前の群衆を見て、チームの新しいマスコットが黒ヒョウのキャラクターだという事実をようやく思い出した。よりによって、今日これから試合が行われるなんて…。しかし、怒っては駄目だ。サッカーチームは悪くないし、ファンの人々も悪くない。もちろん、黒ヒョウのマスコットキャラクターも悪くない。悪いのは、本日これから試合が行われるという情報を入手していない、僕だ。  己の目玉だけで、大きな時計台の周辺に佇んでいる黒の集団の中から爽やかな黒ヒョウさんを見つけ出すのは至難の業だ。  僕は、ポケットからスマホを取り出す。爽やかな黒ヒョウさんに連絡を取るためだ。画面をオンにする。  ふむ。……バッテリー残量1%。なんてこった。これは大ピンチ。だが、ピンチなときこそ冷静にならなければいけない。それはパズルゲームにも当てはまる。これまで膨大な数のピンチに遭遇してきたが、冷静さを欠いて乗り越えられたためしがない。  考えろ、僕。…そうだ、近くの店で充電器を買ってから適当な飲食店で充電すればいいじゃないか。  僕は残金を確認するために財布を取り出した。……残金3円。これ、昨日買い替えた財布だ。僕ったら、何故このタイミングで新しい財布を衝動買いしてしまったのだろう。なぜか交通系ICカードだけは古い財布から移動済みの記憶があるが、現金は古い財布に残したままだ。つまり、キャッシュカード、クレジットカードの類も財布に入っていない現在の僕は、支払いの手段が皆無だ。どうポジティブに考えても、3円では充電器を買えないのはわかる。さっき駅で確認したが、交通系ICカードの残高はゼロだ。  思い切って、そこら辺を歩いている人たちに「すみません、スマホを使わせてくれませんか?」と片っ端から頼み込む手段もあるかもしれないが、このシビアな現代社会では拒絶されるに決まっている。  でも、どんな状況でも希望を捨ててはいけない。スマホのバッテリー残量が1%は絶望を意味しないのだから。絶望するには早すぎる。バッテリー残量が0になったときこそ、絶望のときなのだ。   きっと、1%もあればワンメッセージを送信する余裕がある。  唾をゴクリと飲み込んでスマホ画面を覗く。その瞬間にバッテリーが0になり、真っ黒な画面を見ながら僕は絶望した。     
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