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清潔で上品な雰囲気の店内に入ると、店員の「いらっしゃいませ!」という威勢がいい、気持ちの込もった声が聞こえた。店内は賑わっている。どうやら満席のようだ。
すると、店の奥の方から入口までスピーディーに移動してきた店員が「あ、オーナー! お疲れ様です!」と深々と頭を下げた。
「お疲れ様。ちょっと奥の部屋を使わせてもらうよ」
「はい、わかりました」
店員は、もう一度頭を下げると接客に戻っていった。
「オーナー? え、そうなんですか? 黒ヒョウさんが?」
『食堂パズル』という店名から、ひょっとしたらと思っていたが…。驚いた。
「そうそう。ここは自慢の店だ。さ、こっちに」
僕は、店の奥にある従業員用の通路に案内された。そして、その通路の奥にある謎めいた部屋に入る。二人でいるには少し広く感じる程度の空間に大きなテーブルがあり、カラフルな色の椅子が6脚並べられていた。6脚はそれぞれ違う色で、6色とも僕らの大好きなパズルゲーム内で使われている色だ。僕は正直、椅子が派手過ぎて悪趣味だと思ったが、口に出すことはしなかった。僕は赤い椅子に、爽やかな黒ヒョウさんは黒の椅子に向かい合って座る。
「いい椅子ですね。ゲームで使われている色だ」
「僕が細かく注文して作ってもらったから、けっこうな値段するんだぞ」
「へえ、素敵です」
「だろ? お気に入りの椅子なんだ」
「とても…素晴らしいデザインです。でも、びっくりしました。オーナーさんだったんですね。そういえば、サービス業の仕事をしていると聞いた気が…」
「ネットでは具体的な個人情報を言いたくなかった。だから漠然と、サービス業をしているとだけ伝えた」
「へえ、なるほど。そういえば僕ら、ゲームに関する話題が大半でしたよね」
「だね。でも、実際に会ったら話そうと思っていたんだ。俺が、この店のオーナーをしているっていうことをね」
「ああ、なるほど。見極めをしていたんですね。僕が信用できるヤツか、否かを」
「そう。坊やさんのことは信用しているよ。そういった怪しげな格好をしているけれどもね。まあ、見た目なんかは、どうだっていいけどさ。…ところで、坊やさん。ちょっと待っててくれないかな。プレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
僕は、一人ぼっちで10分から15分くらい待つことになった。店内に響く賑やかな声と食器がカチャカチャする音を聞いていたら猛烈に腹が減ってきた。
ようやく、「お待たせ。うちの看板メニューだ」と爽やかな黒ヒョウさんが、ボリュームたっぷりのトンカツ定食を運びながら入ってきた。
「おぉ、デカくて旨そうですね。いい匂いがします」
「旨そう、じゃなくて旨いんだよ」
爽やかな黒ヒョウさんがムッとする。でも、すぐに爽やかに微笑んで「坊やさん限定メニューの3円定食だ」とトンカツ定食をテーブルに置いた。
「え? 冗談ですよね?」
僕が困惑していると、「冗談ではないよ。今から、これをプレゼントするからね」と言って、名刺の大きさの紙を手渡された。
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