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ロイは宰相閣下に変身していた。
ロイは私が幽閉されている塔の管理をしている北の館へ足を運んだ。
北の館は王宮の中でも宮殿から北の林の中にある。
主に宮殿の庭園の管理をしている館だ。
「これからは食事の用意は必要ない。昨夜のうちに秘密裏に塔の上の者を移動させた。この事は極秘だ。誰かに話せば首が飛ぶぞ」
ロイは北の館の長に命じた。
「畏まりました。仰せの通りに」
顔は知っているだろうが、直接言葉を交わしたことのない宰相閣下の直々の命令だ。
北の塔の使用人達が緊張しながら頭を下げた。
「この事は他言無用だ。王室の問題だからな」
「承知しました」
返事の声も怯えている。
「鍵はあるか?」
ブルブルと震えながら、女の給仕係がカギを持ってきた。
宰相に扮したロイは鍵の束を受け取ると。
「今後一切、あの塔には近づくな。今までの事は全てなかった事だ」
そう命令して、北の館を後にした。
とある大臣が一人、夜中にメイドを連れて王宮の門を出た。
門衛は特に気にせず大臣の馬車を通した。
気に入ったメイドで今夜は遊ぶんだろう。よくある事だと思い、門衛は大臣の横に座る女に注意を向けなかった。
◇
ロイはオドネルに『王妃の涙』が舞踏会で盗まれたことをリークした。
『王妃の首からいつの間にか盗まれた。どうやったのか詳細は不明だ』
新聞にその事実が大きく掲載された。
国民は怪盗ベルベットが王室を出し抜いた事に驚いた。
王家がどんな言い訳をしても、いたずらに民の嘲笑を買うまでだった。
王室相手の盗みを難なくやり遂げた巧技は見事だった。
怪盗ベルベットの大胆不敵な盗みに平民たちは賞賛を贈った。
しかし、二度と同じ轍は踏まないと、宮殿では警備が強化された。
王宮に住んでいる王女たち全員を、宮殿の自室に閉じ込めた。
王女たちは皆最初の内は怯えていたが、ひと月も経つと、苛立ち、文句を言い出した。
ベルベットのカードには、いつ盗むかという時間の記載がなかった。
時間が経つにつれ宮殿の様子も殺伐としてきていた。
◇
ロイは国王に近づき、宰相に変身し、堂々と王の傍らにいた。
国王に今度の園遊会の演目の話をしている。
「そうです。園遊会では魔法使いが訓練の成果を披露します。今回は新しい魔術師が参加します。大きな動物に変身するそうです」
「動物にか?」
「はい。それは見ものだそうで、手品のような物ではないようです」
「それは楽しみだ。ただでさえ、王室の失態が新聞に載り、王家の恥さらしもいいところだった」
園遊会は王家が主催する屋外での宴会で、高位貴族たちを招待し、毎年春に行われる。
「ですから今回は王室の信頼を回復させる良い機会です。成功させましょう」
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