呪いの力

1/3
前へ
/18ページ
次へ

呪いの力

朝までは、ふかふかのベッドで眠っていた。 目が覚めると、パジャマドレスのまま、護衛の騎士たちに引きずられるようにこの塔の部屋に連れてこられた。 部屋の中に押し込まれると、重い鉄の扉が閉められた。 五歳の誕生日を迎えた朝、私は高い塔の最上階に幽閉された。 私は魔力で人を呪う、恐ろしい力の持ち主らしかった。 けれどその時は、魔力が何なのかよく分からなかった。 呪うという言葉の意味も理解できないほど、私は幼かった。 国王陛下の側妃が産んだ七番目の王女、それが私、サブリナだった。 黒い髪と紫の瞳を持つ少女は、王宮の広大な敷地の奥に建つ塔に、何も説明されず閉じ込められた。 朝と夜、一日に二回だけ、ドアの下の小窓から食事が差し出される。 朝はパンとスープ。 長い距離を移動して持ってくるためか、スープはいつも冷たかった。 夜はそれにおかずが付く。干した肉だったり魚だったりする。器に手を突っ込んで食べた。スプーンやフォークなどは無かった。 最初は毎日泣いていた。 出してくれとドアを拳で叩いた。赤く腫れて、指の関節が血で滲んだ。 食事を出し入れする小窓に向かって何度も叫んだけれど、誰も来てはくれなかった。使用人の姿を見る事さえできず、気配を感じても誰も口をきいてくれなかった。 食事を運んでくる使用人は、私と話をしたら呪われると聞いているようだった。 食事が持ってこられるたびに、大きな声で話しかけた。 「お願いここから出して!」 「お願いお父様に会わせて」 「お願い誰か話をして」 「声が聞きたいの」 「お願い」 「お……」 半年くらいずっと話しかけた。何度も大きな声で。 食事を食べなかったら心配してドアを開けてくれるかもしれない。 怪我をしたらお医者様を連れてきてくれるかもしれない。 泣きわめいたら…… 狂ったふりをしてみたら…… 何をしようが無駄だった。 怪我をしても自分が痛いだけで、誰も助けに来てくれない。 言葉を使わないと、どんどん言葉を忘れてしまう。 部屋はベッドがあるだけだ。 クローゼットもない。 椅子もない。 机もない。 背が届かない高い位置にある、小さな窓から晴れた青い空だけが見えた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加