園遊会

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園遊会

ひと月後。 平坦で広大な敷地、シンメトリーで幾何学的な配置がなされた美しい庭園の中で園遊会が開かれた。 舞台が作られ、その壇上で魔術の実演が行われる。 ロイは園遊会の最後を飾る大トリだ。 椅子が並べられて貴族たちが観客となり、ロイを観るために行儀よく座っている。 「今回私の魔力、変身をご覧いただくために、皆様には、お一人ずつ手鏡を配っています。小さな生き物に変身すると、遠くの方々はご覧になれないかと思い、鏡にその状態を映し出す事に致します」 離れている者は、前方にいるロイの姿が見えない。その為に大型の鏡を用意させた。 庭園は一区画が鏡で埋め尽くされた状態だ。 そしてロイは、アシスタントの女性を自分の横に呼び寄せた。 濃いブラウンヘアーの美しい令嬢がロイの横に立った。 サブリナだった。 ロイはこの日の為に、サブリナに綺麗な衣装を用意してくれた。 母の面影を残す、凛とした女性に成長したサブリナの姿を見ても、国王は娘の事を分かってはいなかった。 「彼女は現在の様子を正確に鏡に映す事ができます」 サブリナはロイの合図に頷くと、数ある鏡全てに、ロイの姿を映し出した。 「おおお!」 歓声が沸いた。 不思議な物を見るように、ロイと鏡を見比べる。 国王も手鏡を見て、今前方に立っているロイの姿を確認する。 「このように、彼女は今の情景を鏡に映しだせる能力があります。しかも、過去の光景や場面も正確に映せます」 観客が壇上にいるサブリナに視線を向ける。 「先ほどこの庭園に皆さまがいらっしゃった様子を映し出します」 彼女はそう言うと、三十分前の光景を映し出した。 そして国王が来賓の挨拶を受けている様子を映した。 高位貴族たちが歓声を上げる。 「私は過去の出来事も、フェイクではなく映す事ができます。音声も鏡から聞こえます。聞きとりやすいよう、皆さまどうか静粛にお願い申し上げます」 期待感からサブリナの言葉通り、皆が静かに壇上と鏡に注目した。 「それでは始めます」 あっという間にロイは犬に変身した。 ◇ 「これからは少し鏡の方にご注目下さい。中に映し出される映像を観て音声をお聞きください。全て現実に起こっていた事でございます」 言われた通り全員が鏡に注目した。 サブリナの力は強大だった。 宮殿内のあらゆる鏡、ガラス面、そして池の水面にまでそれは映し出された。 まずは王妃が今まで陰で従者たちを虐めているところ。メイドには鞭を振るい、側近には物を投げつけている。 側妃たちのドレスに鋏を入れる姿、幼い王子の頭の上から紅茶をかけている。 どよめきが起こった。 「お静かに」 ロイが大きな声で皆に注意する。 高位貴族に対して失礼極まりない言い方だが、皆、鏡の中の映像に夢中で気にしていなかった。 それから映像は切り変わる。 生きている時のベルベットの姿。 若き日の国王、楽しそうな日々。幼いサブリナと母親のベルベット、そして国王の姿は誰の目にも幸せそうな王室の団欒のひと時に見える。 王は鏡に見入っている。涙で熱くなったのか、指で目頭を押さえた。 『あの女に毒を盛るのよ』 王妃の声がする。 傍には王妃に忠実な側近の姿。 『けっして悟られないように』 毒はベルベットのティーカップに塗られた。 側妃のベルベットが毒に倒れる。 王妃は魔術師と話している。 『呪いの力でサブリナが殺したことにしなさい』 魔術師は袋に入った大量の金貨を受け取っていた。 同じ映像が繰り返し、三度流れた。 「嘘よ!こんなのでっち上げよ。そのものを捕らえなさい!これは王室に対する謀反!早く誰か捕まえなさい!」 誰も王妃の言葉には従わない。国王が大声で怒鳴った。 「王妃を黙らせろ!」 近衛兵が動いた。あっという間に王妃は拘束される。 映像はまだ続いている。 『呪いの力だと……』 国王の声だ。 『サブリナを北の塔へ幽閉しろ。食事以外は一切面倒を見てはならぬ。一生そこから出すな!』 王が兵士に命令した。幼いサブリナは塔に閉じ込められた。 観客から嗚咽が漏れた。 皆がざわめき出す。 映像は続く。 幽閉された塔内部。サラフィナが成長していく。 汚れた姿、食事を手で食べている。 汚い衣服でたった一つの窓を見上げている。 たまらず貴族のご婦人たちが泣き出した。 映像は水を張ったバケツの水面にも映し出されている。 下働きの者も、王宮の地下でそれを観ている。 王妃は黒い喪中のドレスを着てベルベットのネックレスを宝石箱から取り上げている。 鏡に向かって自分の首にそのネックレスを着ける。 映像の中の王妃は、王妃の涙を身に着けると、醜い顔でニヤリと笑った。
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