最終話

1/1
前へ
/18ページ
次へ

最終話

「サブリナは!サブリナがいただろう!どうなった!サブリナはどこだ!」 国王が立ち上がり大きな声を上げた。 側近たちは何もわかっていない。 そう、皆忘れていた。 サブリナの存在を。 「き、北の館へ……塔へ今すぐ兵を向かわせろ!」 「はい!」 会場内は一気にざわめく。誰もが国王の指示を待つ。 「王妃は、どうされますか!」 「いまは王妃のことなど構ってはおれん。牢に閉じ込めておけ!」 「王様!国王陛下!私は何もしていません……無実です!私は!」 「あなたが私のドレスをめちゃくちゃにしたのね!」 国王の側妃たちが叫びだした。 「私の大事な王子に茶をかけるなんて!」 震えながら王妃に掴みかかろうとする側妃もいた。 「私は王妃様にぶたれました」 「私は王妃様に階段から突き落とされ」 「私は王妃様に腐ったものを食べろと」 「私は王妃様に髪を切られ……」 王宮の侍女たち使用人たちも声を挙げた。 「嘘おっしゃい!そんなの嘘よ!」 王妃の叫び声は庭園に虚しく響く。 暴れる王妃は衛兵によって地面に顔を押し付けられた。 「皆様、最後の変身にございます。どうぞご覧ください」 壇上のロイが何を言おうがもう誰も聞いてはいない。 騒ぎは鎮まる様子がなかった。 ロイは右手を大きく振って目を固く瞑る。 すると、一瞬で伝説の生き物とされるドラゴンに姿を変えた。 ドラゴンは雄叫びをあげる。 「ガルウルゥゥゥゥゥ」 地響きのようなその声に、会場は静まり返った。 時が止まったようだった。 観客はその姿に目が釘付けになり、体は凍りついたように動かない。 サブリナがドラゴンの前に歩み出た。 「国王陛下、貴方は自分の娘の顔も覚えてないのね?」 国王はじっとその女性の顔を見た。 サブリナの瞳は母と同じ紫だ。 髪の色は国王の物。 幼い頃の面影を残す。 彼女はサブリナだ。 王は愕然としてわなわなと震えだすと膝から崩れ落ちた。 彼女はドラゴン背にゆっくりと跨ると、陛下に侮蔑の目を向けた。 「自分に都合の悪い事だけを忘れ去る事は罪よ。貴方は最低ね」 国王は頭を抱えて両肘を地面につけた。 次の瞬間、ドラゴンは翼を広げて一気に空へと舞い上がった。 頭上高く青く澄み渡った天空へ、勢いよく羽を広げた美しいドラゴン。 人々は呆気にとられたまま、ずっと空を見上げていた。 「お姫さまは、この勇敢なドラゴンのお嫁さんになる気はありませんか?」 上空でロイがドラゴンの姿のままサブリナに言う。 サブリナはニッコリ微笑むとドラゴンの首にしがみついた。 「ええ。もちろんよ!」 ドラゴンが飛び去った後、壇上に一枚のカードが残されていた。 『忘れ去られた美しい姫はいただいた。   怪盗ベルベット』            -----------完ーーーーーーーーー
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加